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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第六十話 宴の始末は模糊として
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組織的な転進を可能としたのである。

「とはいえ‥‥‥そのあとは龍州軍と近衛の奮戦があるのだがね、そも第二軍とて緒戦から戦線を支えたのだから責められんよ。彼らも正当な評価を得るべきだ。あの戦いでは〈皇国〉軍は誰もが死力を尽くしたよ」
 その中でも勲功抜群として駒城・西津両中将から部隊感状、個人感状を受け取った豊久はそう言って苦いものが多分に混じった笑みを浮かべた。
 駒州より派遣された部隊は遠からず内王道で補充と再編、そして再戦力化に入るのだろう。駒州軍司令官の閲兵がそれを意味している事は誰にでもわかることだ。
「はい、聯隊長殿」

「姫殿下はやはり怪物、か。‥‥‥なんだよ、そんな顔をするな。馬鹿め。戻ればお前たちは女にも困らんし酒だって奢ってもらえるだろうよ」
 疲労と不安をごたまぜにした鈍重な空気が幕僚達を支配している。これは良くないがそうした空気に浸れる程度に余裕ができただけかもしれないな、と豊久は思考をもてあそんでいる。最も酷い時期にはわが身を儚む時間すらなかった。泥のように僅かな時間を眠り、ふてぶてしい笑みを浮かべた聯隊長にあれこれと命令を下され聯隊本部はあまりに多くの為すべき事がありすぎた。
 どのみち、兵も将校達も、自分もいい加減に休まないといけない、休みたい。


「失礼します!駒城閣下より伝令将校殿が参りました!」

「駒州軍導術参謀の御馬です。聯隊長殿はいらっしゃいますか?」
 導術将校らしい額の銀盤が初夏の陽光に反射し天幕の中に光を差し込ませた。

「ここだ、何用かね?」

「聯隊長殿、司令官閣下より貴官と少し話がしたいとお望みです」

「‥‥‥」
 豊久はそっと瞼を揉み、そして視線を目の前の道術将校へ向ける。
「了解した、御苦労だった少佐」





「久しいな、中佐。よく無事に戻ってきてくれた」
 
「もったいない御言葉です、閣下」

「――どうだね、一つ」
 差し出されたのは最高級の細巻だ。
「ありがとうございます、閣下。いただきます」
 自身の義弟が幼馴染と呼べる唯一の男に細巻をわたすと駒城保胤は穏やかにまず労いの言葉を述べた。
「まず――君は良くやってくれた。聯隊の編制目的である各兵科との共同戦術についても十分に有効性と限度を確認できた。
そして前線仕事としても敵が追撃に出す戦力を半減させることにも大いに貢献をし、後衛戦闘においても軍の崩壊を瀬戸際で食い止められた。その勲功は第三軍にいた佐官の中でも随一といっていいだろう」

「ありがとうございます、閣下」

「‥‥‥」
 保胤は煙を吐き、それが霧散していく様子を儚むように話題を変える。
「馬堂中佐、君はもう直衛の事は聴いたか?」

「‥‥‥申し訳ありませんが、実際に下された軍令を
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