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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第六十話 宴の始末は模糊として
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いという致命的な欠陥を除けば理にかなった案ではある。つまるところ〈帝国〉軍の兵站状況に拠るところが大きすぎるのだ。

 六芒郭籠城策はそれとはまた異なる、兵站戦ではなく敵の戦略単位兵力を拘束し、突破を断念させるという作戦であるため、より確実な案であるとあいえるだろう。――が不確実性では何も変わらない、それどころか1万もの兵力を虎城防衛線から分離させ、未完成の要塞に押し込めるという点では何も問題は解決していない。

 窪岡の立場からみれば悪手も悪手だ、単純に雨期までこの国を生き延びさせるという目標から考えれば悪い取引ではないのは事実だ。
だが後備軍が戦力化するには時間がかかるし、後備軍を常備軍と同じように扱えるかと言えばそれは軍事的常識から言って難しい。そして龍州軍に続き近衛総軍までもが軍としての体裁が整わない状況になるのはいかにも不味い。龍州軍は避難民の一部から義勇兵を集っている――良くて聯隊程度であるが、戦意高揚の為に必要不可欠だ。
民草の気分を盛り上げる為にも敗残軍の一刻も早い戦線復帰が求められている。


「それは常備の銃兵旅団が後衛戦闘にあたっているからでもある、近衛の後衛戦闘隊が合流すれば護州軍が動員を完了するまで一万の兵力を保持できる。
駒州軍が後方を扼するように行軍すればよい、初動を凌げば敵は冬営を余儀なくされるのは自明の理だ」

「はい、閣下。ですがその場合、最優先防衛対象である皇龍道の兵力が摩耗することになってしまいます。
葦川を盾にしている東沿道やそもそも大軍を動かせない内王道と異なり、幅広く部隊を展開せねばなりません。
つまりは、防衛に不適切であり、短時間でも戦力の消耗を強いられることになります。
六芒郭を利用するべきであると愚考したします。」

「だが仮に一万の兵力を六芒郭に押し込めたとしても、後が続かないのは同じであろう。なら一万の兵力を皇龍道に追加する方が得策ではないか。敵が二個師団をすべて投入し、突破を図るのならば駒州軍を動かせばいい」

「はい、閣下。ですがその前提条件として護州軍が一戦交えることがひつようになります。ただでさえ動員が遅れている現状では敵本隊が合流してからの二度目に耐えうるかは不確実にすぎるかと愚考いたします」

「ふむ‥‥‥」
 窪岡は黙考する。ここで護州が動員を遅らせているのではないかと追及しても益はない。現実として兵数が足りていないことには変わりはないのだ。駒州の構想は護州軍の動員の遅れが足かせとなっている。〈皇国〉陸軍であっても『護州公爵家領』の『護州軍』である以上、その権限に手を出すことはできない。

「理事官閣下からはなにか意見はあるか」

「六芒郭を利用するという点については良案ではないかと思います。その場合は早急に建材、砲等の割り当てを変更しな
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