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八神家の養父切嗣
二十八話:理解
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るが面白いものを見つけたのだが、聞きたいかね?】
「お前がそういう時はどうせ聞かなければならないことだろ。いいから話せ」

 ねっとりとした聞く者を不快にさせる声。切嗣はその声に何か自分にとって不味いことが起きたのだろうと判断する。スカリエッティにとっては他者の不幸ほど甘美なものはないのだ。そして、彼は切嗣の不幸を最も楽しんでいる節がある。そのため聞きたくなくとも最悪の事態を防ぐためには聞くしか道がないのだ。

【くくくく、では、そうさせてもらおう。スバル・ナカジマ、彼女を知っているね?】
「……それがどうした? 確かに僕はあの子を知っているがあの子は僕を知らないだろう」
【それがだね、そういうわけにもいかないみたいだよ】
「どういう意味だ?」

 嫌な予感がする。熱くもないのに背中に気持ちの悪い汗が流れる。あの時は、ただ無我夢中で助けただけだった。その後のことなど何も考えていなかった。何かを救わなければ心が壊れそうだったから小さな命を救った。そこであの子との関係は終わるはずだった。だが、しかし。

【彼女のデータを改めて取っていたのだが、その時に彼女が見せた行動、いや信念は実に素晴らしいものだった。自分ではなく他者を第一に考え、戸惑うことすらなくその命を名も知らぬ誰かの為に投げ出せる精神性】

 一瞬目眩がする。何の冗談だろうか。それじゃあ、まるっきりどこかの愚かな男の行動じゃないか。いや、下手をすればそれ以上だ。まだ絶望を、現実を知らぬが故に割り切ることもできていないのだろう。他者から見れば異常者でしかない行動を取り続ける人間などもう増えなくていい。そう思うが現実は変わらない。

【その姿はどこからどう見ても―――正義の味方だったよ】
「…………あの子は誰かを切り捨てるような真似はしたかい?」

 知ってしまった新たな己の罪に愕然とする切嗣。だが、すぐに思考を切り替えて自分との差異を確認する。正義の味方など目指してなるものではない。全てを救うことなどできはしないのだからいずれ自分のように滅びを迎える。

 しかし、全てを救うことを諦めれば間違いなく自分と同じ存在になり果てる。それだけは防がなければならない。彼女を救ってしまった身として、多くの人を殺めてしまった咎人として。

【いいや、確認できてはいないが恐らく彼女はそれができないだろう。彼女が追っているのはあの日の理想像()だからね。あの日の君は普段と違い誰かを見捨てたりはしなかっただろう?】
「……ああ、それを聞いて少しだけ安心したよ。まだ、どうにかなる」

 できれば自分のように家族や大切な人間を切り捨てるような人間になって欲しくない。間違いで塗り固められた道を歩くのは自分一人でいい。あの子はまっとうに生きるべきだ。誰かを見捨てるような立場に立
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