2部分:第二章
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第二章
「こいつだ」
こうだ。確信したのである。その角が何よりの証拠に思えた。
怖かった。何しろ人を取って食うと噂されている妖怪だ。自分も取って食われるのではないのか、慶彦はその恐怖を実際に感じていた。
だがここまで来て、しかも男としてだ。捜し求めていた妖怪に会ってそれで逃げるというのは男が廃る。それでは何もならない。そう己に言い聞かせてである。
彼はバットを両手に持ってだ。その妖怪に思いきり殴りかかった。殴りかかりながらだ。
お札に大蒜、そして十字架も投げつけた。とにかく妖怪の困るようなことを徹底的にした。
バットでしこたま殴ってから桃の木の木刀で突いた。妖怪はそれで倒れた。
倒れたと見てそれから杭とハンマーを出してそれで心臓を一突き、それでケリをつけるつもりだった。
倒れた妖怪に馬乗りになる。しかしだ。
そこにいたのはだ。妖怪ではなかった。
確かに妖怪を思わせる姿だ。不気味な微笑みを浮かべ奇妙な服を着たスキンヘッドの子供だ。そして頭に鹿の角がある。それは。
奈良県民なら誰もが知っているあのマスコットの大きな人形だ。可愛くないだの県民への嫌がらせだの呪われた存在だのある妖怪漫画の主人公に毛針で攻撃されるだの言われているダントツの不人気を誇るマスコットがそこにいた。つまり彼は夜の中で見たマスコットを妖怪と思ってしまったのだ。
真相がわかれば何ということはなかった。皆夜の暗がりの中で県の至るところにあるマスコットを見て妖怪と勘違いしてしまったのだ。そういうことだった。
この話が広まり皆もう妖怪はいないということがわかった。しかしだ。マスコットは相変わらず県の至る場所に飾られてそのうえでだ。不気味な姿を見せ続けているのであった。
奈良の妖怪 完
2011・4・1
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