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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百八十七話 飴と鞭
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いう事で帝国がその信用を付与します」
「付与と言うが如何する?」
「帝国政府が同盟政府の保証人になるのです」
「保証人?」
私とリヒテンラーデ侯の声が重なった。思わず二人で顔を見合わせたが……、保証人? ヴァレンシュタイン元帥は悪戯を思い付いた子供の様な笑みを浮かべている。

「同盟政府が発行する国債は三十年以内は同盟政府が、それ以降は帝国政府が責任を持って償還する。同盟政府の信用に不信を抱く人間は居なくなる筈です」
「……」
「現状帝国政府が所持する国債は同盟に返還しません。万一返還しそれを売りに出されては帝国の負担が増加しますから」
「しかし、無制限に国債を発行されては……」
私が抗議すると元帥がニッコリと笑みを浮かべた。

「ええ、大変な事になります。だから同盟の予算案は帝国の承認を得る事を義務付けるのです。国債をどれだけ償還しどれだけ発行するのか、三十年後、帝国が受け持つ分はどれだけになるのか、予算案から確認させて貰います。不備が有れば当然突き返す」
「それは……」
思わず絶句するとリヒテンラーデ侯が元帥に問い掛けた。

「同盟政府が断れば如何なる?」
「帝国政府は保証人になる事を拒否します。そして密かに同盟政府に対して帝国政府が所持する国債の償還に応じるように交渉します」
「……密かにか」
侯が問うと元帥が笑みを浮かべた。
「ええ密かにです。でもこういう交渉は自然と漏れるものです。あっという間に混乱が生じるでしょう」
リヒテンラーデ侯が元帥を一瞬睨んでから声を上げて笑った。

「酷い男だの。財政面から同盟を支配するか。民主共和政等と言っても帝国の言うがままじゃ、逆らえまい。理念など金の前には吹き飛ぶの。怖いものよ」
「そうですね」
「フェザーン人も顔負けの悪辣さじゃの。同盟政府など卿にかかっては赤子の手を捻る様なものか」
リヒテンラーデ侯が更に笑う。元帥は笑みを浮かべていたが侯が笑い終ると笑みを消した。

「国債だけでは有りません。年金も帝国が引き継ぎます。同盟政府が同盟市民に保証していた金銭面での権利を帝国が全て継承する。それによって同盟市民を安心させるのです。帝国は軍事面で同盟を圧倒しました。政治面、経済面で彼らの権利を保証すれば反帝国運動は小さくなる筈です」
リヒテンラーデ侯が大きく頷いた。

「つまりそれが憲法制定と国債、年金か……」
「そうなります」
「憲法、ですか?」
私が問うとリヒテンラーデ侯が“うむ”と頷いた。
「驚かせたか。新帝国を創るためには国の形を定めねばならん。近々に閣議を開き憲法の制定を諮るつもりじゃ。閣議の決定をもって陛下の御許しを得る。憲法制定のため、先ずは草案作りだがそれはヴァレンシュタイン元帥にやってもらう」
元帥に視線を向けたが驚く様子は無い
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