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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百八十七話 飴と鞭
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いる筈です」
「……」
「帝国が償還を要求するのは無理でしょう。金額が大き過ぎます。帝国が償還を要求すれば皆が同盟に国債の償還を求める筈です。それに応える力は今の同盟には無い、あっという間に国家破産です。市民が国債を売ろうとしても買い手が付かない。暴落ですね。酷い混乱が発生するでしょう」
「……」

「帝国側に同盟を潰す覚悟が無ければ国債は交渉のカードにはなりません。何の価値も無いシロモノです」
「その通りです。だから返還という選択肢が出ると思いますが」
私が答えると元帥が笑みを浮かべた。
「価値が無ければ付ければ良いでは有りませんか」
リヒテンラーデ侯が笑い出した。如何して笑えるのだろう、私は寒気がする。

「またあくどい事を考えておるのだろう」
侯が揶揄したが元帥は笑みを浮かべたままだ。そして紅茶を一口飲む。飲み終わった時には笑みが消えていた。
「今の同盟には致命的な弱点が有ります。国家の寿命が三十年しかない。国家としての継続性、持続性、成長性が無いのです。つまり国家としての信用が有りません」
「……」

「この状況下において同盟は経済面で混乱します。それに対処するためにもっとも必要になるのが何か、分かりますか?」
「必要になるものか……。財務尚書、卿は分かるか?」
リヒテンラーデ侯が問い掛けてきたが……、困った……。
「金、でしょうか」
ありふれた答えだ。はっきり言って失望される事を覚悟したが元帥は“そうですね”と頷いた。……正解か。ホッとした、一口紅茶を飲んだ。

「同盟政府は混乱を回避しようとして手を打つ筈です。しかし何を行うにしても必要なのは金、つまり財源でしょう。その財源が足りない筈です。企業の経営状況が厳しくなればなるほどその傾向は強まります」
「軍事費は削減出来ると思いますが?」
問い掛けると元帥が首を横に振った。
「安全保障費を払いますから殆ど意味が有りません。それに軍人の多くが失業者になります。税収は間違いなく減少しますね」
なるほど、それが有ったか。国務尚書も頷いている。

「財源が無いとなれば国債を発行して財源を補うという手段が有ります。しかし残り三十年の寿命しかない同盟の国債を買う企業、人間が居ると思いますか? しかも現時点で相当な量の国債を発行し償還されていない。この状況でです」
「難しかろうな」
「長期はおろか短期でさえ買い手は付かないと思います」
今更だが同盟のおかれている状況の厳しさが分かった。これでは混乱するなというのが無理だろう。リヒテンラーデ侯も厳しい表情をしている。三十年後の統一がスムーズに行くのだろうか……。思わず溜息が出た。元帥がクスッと笑った。如何して笑えるのだ?

「同盟政府も頭を痛めているでしょう。国家の信用をどうやって保証するかと。……と
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