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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百八十七話 飴と鞭
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していると受け取る可能性は十分に有ります」
「帝国の援助を求める声も出るかもしれん。混乱させて併合を前倒しにしようとしている、そう取るかもしれんの」
思わず溜息が出た。リヒテンラーデ侯もげんなりしている。

「売るか?」
リヒテンラーデ侯が私と元帥を交互に見た。
「膨大な量です。売ると言っても買い手が有るかどうか……。むしろ混乱が生じかねません。それこそ非難を受けるでしょう」
「財務尚書の意見に同意します。混乱が生じるだけでしょう。むしろ同盟政府に譲渡した方が良いと思います」
「譲渡!」
私とリヒテンラーデ侯の声が重なった。だが元帥は“ええ、譲渡です”と平然としていた。

「持つ事が出来ない、売る事が出来ないとなれば譲るしかありません。譲ってしまえば妙な言いがかりは付けられずに済みますし同盟政府、市民も帝国は同盟を苦しめようとしているとは非難出来ません。むしろ政府は政治的な立場を強化出来るでしょう。良い事尽くめですよ、感謝して貰えますね」
笑いを含んだ声だ。リヒテンラーデ侯が呆れた様な表情をした。

「酷い男だの。同盟政府のためとは言っているが内実は爆弾を押付けるような物であろう。いずれ気付くぞ、してやられたと」
非難されて元帥が肩を竦めた。
「非難は心外ですね。同盟市民の生命の安全と財産の保全は同盟政府の仕事です。帝国政府の仕事では有りません。後三十年は責任を持って仕事をしてもらいます」

溜息が出た。元帥は何事も無い様に紅茶の香りを楽しんでいる。リヒテンラーデ侯が困った奴だと言わんばかりの表情で私に視線を向けてきたが私には答えようがない。確かに酷い様にも思えるが実際言われてみればその通りで譲渡が最善の対応策だろう。利益も無いが損失も無い。ただ勿体無いという感情が有るだけだ。それだって面倒事を避けるためと思えば我慢出来る。それに同盟政府の仕事であるのも事実だ。

「分かった、そうしよう。この件はゲルラッハ子爵の方で同盟政府と話を付けてくれ」
「承知しました。……もう一つの国債の件ですがこちらも?」
「そうよの」
リヒテンラーデ侯と私が元帥に視線を向けると無言で一口紅茶を飲んだ。気が付けば喉が渇いていた、私も一口紅茶を飲んだ。リヒテンラーデ侯も同じだ。

少しの間が有った。元帥は眉を寄せている。
「国債ですが、……帝国政府が所持していた方が良いと思います」
良いのだろうか? 同盟との関係を良好に保つ為に還すと言うかと思ったが。リヒテンラーデ侯を見たが侯も意外そうな表情をしている。
「宜しいのですか? 国債を帝国に握られていては如何にもならない。同盟では反発が起きそうですが」
「……」
反応が無い、未だ考えている?

「国債を持っているのは我々だけでは有りません。同盟市民、フェザーン市民も所持して
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