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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十七話  俘虜の事情と元帥の事情
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送かしら?」
「はい、現在でも辺境艦隊から118隻を割くのは良いのですが、
徴用船舶が197隻と、予想より少なく、今後の輸送に支障が出る可能性があります。
これは〈帝国〉の海運が廃れているのが原因です。
更に後数年、遅れていたらどうなっていたのか、考えたくありませんな。」
 メレンティンの懸念を肥大化させたのは豊久との会話であった。
――そう、この島国への進攻の最大の懸念は渡洋の際の輸送船の不足だ。あの青年の指摘通り経済的な敗北は回船の不足等流通面に響いている。我が姫君が、僅か半個師団を直率してテンロウで戦う羽目になったのもそれが原因である。
なにより占領後の軍政に関する面倒はその比ではなかった、
「そうかもしれないわね。今回、水軍は成果が出せなかった、ここで潰せたら楽だったのだけど」
「いえ、118隻には海が広すぎます。
輸送船団の護衛と敵の捜索で精一杯です。
輸送船団に被害が出なかっただけでよしとすべきでしょう」
「つまり貴男の前任者、ケレンスキィ中将が軽率だったと?」
ユーリアは顔を険しくして尋ねる。

「いいえ、姫。これは寧ろ、全般的な情報不足が原因です。
〈帝国〉諜報総局は北方、東方の探りの方へ力を注ぎ、この〈皇国〉は重視していませんでした。この外征は民部省の要請で急遽決まったようなものです」
 ――見事な奇襲、か。
東方辺境軍参謀長はあの言葉を聞いたときには内心、嘆息していた。
態勢が整わなかったのはお互い様である。

「情報不足、ね。 確かに実際、戦ってみると意外な事が多かったわ」
ユーリア殿下がまた嘆息して言葉を続ける。
「急場であれ程の船を集めて逃げ出すとは思わなかった。
それにあの物資の量!海岸で焼き忘れた分だけでこの鎮定軍でさえ半年は養える。
アスローンだってあれ程の手際は持たないでしょうに」
 ――もっとも、その大半はミナツやらなんやらと都市部に集まった難民を養うために消えるだろうが。
兵站部の悲鳴を思い出しながらメレンティンは言葉を紡ぐ。
「あの国は、民部省が懸念した通りに商業が盛んなのです。
商船をかき集めたのでしょう、それに物資も」
「商業ねぇ」
 つまらなそうに言う、関心が薄いのだろう。
「その手の問題には、東方辺境領姫殿下の方が陸軍大佐より余程お詳しいでしょう。」
「詳しいからといって理解が深いとは限らないわよ、クラウス。」
 ――兵理の方がお好みなのは昔からか
自分が教えこんだ事を棚に上げてかつての侍従武官は嘆息した。
「自分がその手の問題に疎いのは軍人ゆえと思っていましたがあの青年は随分と詳しい様でしたな。」
 ――政治に経済、あの青年は官僚の方が向いていたのではないだろうか?

「ああ、あの男。見かけは良くもなく、悪くもなく、と言った所ね。

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