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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十七話  俘虜の事情と元帥の事情
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省の訴訟関連の事務や、軍の綱紀の制定や軍法会議も運営、<大協約>の軍事的側面からの研究などを司っている。
「独立捜索剣虎兵第十一大隊 大隊長、馬堂豊久少佐です」
 人務部監察課に勤務していた時には豊久も何度か法務局と関わった事があるが、これ程彼らを心強く感じたことはなかった。
「私は皇主陛下の執政府の命と〈大協約〉に従い戦時俘虜交換担当官として派遣された。
〈帝国〉が、〈大協約〉に基づいた俘虜の取り扱いを行っているか確認を行っている。
・・・貴官は随分と特別扱いされている様だな?」
書類を斜め読みしながら詰問気味に尋ねる。
 ――はいはい、懐柔されていませんよ、と。
「その様ですね、色々と自分から聞き出したい様でした。
まぁ今は部下と共に労役に服しています。それ程特別扱いはされていませんよ」
 嘘である。実の所新しく与えられた部屋は〈帝国〉士官が与えられる格のものであっ。
――ここまでやられたら疑われても仕様がない。全く、あの賢獪な参謀長は、厄介だ。
内心、冷や汗を流しながらも豊久はにこやかに対応する。

「それにしては労役を部下だけに行わせている様子に見えるが?
貴官の上着には、跳ねた泥一つ付いていない。」

「二等官殿、失礼ですが軍役の経験は有りますか?」

「ない」
――それでは無理もないか。
「軍隊では、当然ですが人死にを前提として構成されております。
そして、厳然な序列が作られ、誰かが死ねば、その通りに部下が役目を引継ぎます。
それ故に士官、下士官、兵の間で、厳密な分業化が行われ、その為の教育が行われています。兵の職分を侵すことは軍の組織構成に反します。」

「まぁ、戦死を前提とした軍組織は特殊ですからね。
普通の官僚・企業組織とは根本的に組織構成の意図が異なります」

「それを労役時にまで適用するのかね?」
 ――〈帝国〉に懐柔されてないか、将校として不当な行動をとっていないか、かまるで監察を受けている気分だ。
「我々は今をもってなお軍役についております。そう云う事です」

「――ほう 流石に将家の御方となると常住坐臥、将校たれ、かね?」
栃沢は目を細め、頷いた。
 ――やっぱり衆民出身の御仁か。
内心舌打ちをする。
将家の争いに関して “中立”である衆民官僚の意見書は良くも悪くも重用されている。既得権益者である将家への反感と上昇志向に凝り固まった衆民官僚を利用している者も少なくない。
 ――これ以上、関わらない方が良いか。
「それで、我々の扱いは如何に?」
この手の人間は不必要に反感を買うよりもさっさと職務に立ち戻らせた方が楽だと豊久は考えていた。
「貴官の部隊には、第一便を以て帰還させるべし、と特命を受けている。
これについては、陸軍軍監本部、それに、水軍からも
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