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鎮守府の床屋
前編
7.提督だったら……いいよ
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ハルみたいなヤツだったらどんなによかったことか……」
「んじゃローションと綿棒で軽く拭き取る程度にしときますよ」
「よろしく」

 綿棒をローションに浸し、それで提督さんの右耳を拭いてやる。確かに掃除されたばかりの耳らしく、キレイな耳からは耳垢はほとんど取れない。

「ん〜……確かにこのローションはヤバイ」
「でしょ? 今度余分に仕入れて隼鷹に一本渡しときます。使って下さい」
「いいの?」
「リフレッシュしてくれりゃそれでいいんすよ。隼鷹の耳も掃除してあげてください」
「ありがと。そうするよ」

 右耳が終了した後は左耳。新しい綿棒をローションに浸してそのまま左耳を掃除する。球磨ほどではなかったが、提督さんも『うぁあああ……耳が……ジーン……』と悶絶していた。おそるべきローションの威力。

「はい。終了です」
「おう。ありがと」

 左耳の掃除も無事終わり、提督さんに耳掃除の終了を告げたその時だった。

「なにやってるクマぁあ!!」

 妖怪アホ毛女の球磨が店に乱入してきやがった。怒り狂ってるのか何なのか、アホ毛が怒髪天を突くとでも言いたげに、まっすぐに空高くそびえ立っていた。

「おっ。球磨、いらっしゃーい」
「すまんな。耳掃除は今終わったから、すぐにどくぞ」
「そういうことを言ってるんじゃないクマッ!!」

 球磨がどこかの逆転系弁護士のように、俺達の方に人差し指をびしっと向ける。どういうことよ? 意味分からんのだけど。

「昨日、球磨の耳掃除をやったときは膝枕だったクマ!!」
「だなぁ」
「ならなぜ今日は提督を膝枕しないクマ!!」

 いや確かにお前の言うことは筋は通るけど、男が男に膝枕って変じゃない?

「変じゃないクマ!! 提督も膝枕をハルに催促するクマッ!!」
「ぇえッ?!!」

 提督さんが驚嘆の声を上げながら、困った顔で上体を起こして俺を見る。

――なんてキレイな目をした人なんだろう……

 俺は、今初めて提督さんの目のキレイさに気付いた。いけない。この人には心に決めた人がいるのに……でも、俺の胸の高鳴りを抑えられない。俺の心と身体が、この人を求めている。

「提督だったら……いいよ?」

 ここまで言うのが精一杯だった。俺はこの短い言葉に、ありったけの気持ちを込めて提督さんに伝えた。

「えっ……でも俺には……」

 提督さんが、頬を染めて……でも困ったような顔で、俺をその綺麗な瞳で見つめる。……提督さん、俺はあなたが好きです。でもあなたには、隼鷹という心に決めた人がいるのは知ってます。でもせめて、せめて耳掃除の時だけは、俺に膝枕をさせて下さい……その時だけ、俺だけの提督さんでいて下さい……提督さんだけの俺になりますから……

「うへぇ
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