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鎮守府の床屋
前編
4.初戦
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は、まだまだ遠いみたいだ……おれは一体いつになれば、あなたに匹敵する床屋になれるのだろうか……

 その後、涙が流れ落ちてしまうのを必死にこらえながら、俺は球磨の髪の毛先を整え、傷んでる部分をカットした後、シャンプーをするべくシャンプー台に案内した。

「おつかれさん……んじゃあとシャンプーするから、シャンプー台に行ってくれ……」
「了解だクマ〜」
「落ち込みすぎでしょハル……」

 シャンプーをしたあとは、球磨の髪を乾かしてやる。ちくしょう。勝ち誇ってやがる。こいつのアホ毛、無力感に打ちひしがれた俺のことをあざ笑うかのように、天空に向かってまっすぐに伸びてやがる……

「うん。だいぶスッキリしたクマ。ありがとクマ」
「はい……ありがとうございました……」
「まだ落ち込んでるクマ……あーそうそうハル」
「ん? なんだよ」
「ちょっとシザーバッグを貸すクマ」

 唐突に球磨はこう言い、ピコピコ動くアホ毛と同じリズムで、俺に向かって手招きをした。なんで商売道具を渡さにゃいかんのだ。

「いいから敗者は勝者に従うクマ!」
「はいはい……」

 一度言い出したらこいつは引かないからな……観念した俺は、自分の腰からシザーバッグを外し、それを球磨に手渡す。すると球磨は……

「撃墜されたマークだクマっ」

 と言いながら、油性ペンで俺のキャンパス地のシザーバッグに、ヘタクソな自分の似顔絵と『敗者だクマ』というセリフを書き込みやがった。

「あぁぁあああ?!! お前、なんてことするんだー!!」
「フッフッフ〜。これぞ勝者の特権だクマ。撃墜マークを描いてやったクマ!!」
「ふざけるな!! なに人様のシザーバッグに自分の似顔絵落書きしてるんだよ!!」

 得意げに球磨が落書きした絵は、鏡に残っていた落書きの痕跡と同じく、絵心のないヘロヘロな自画像だった。

「ん? なにこれ? やっぱり毛の生えたりんご?」

 北上がソファから移動して、シザーバッグに描かれた落書きを覗きこんでくる。こらどう見てもこの忌々しいアホ毛女の自画像だろうが。

「そうなの? 私には毛の生えたキモいりんごにしか見えないよ?」
「北上はこの球磨の妹なのに、姉の自画像も分からないクマ?」
「球磨姉の絵、今まで誰も正解したことないじゃん」

 俺は正解したけどな……でもなんだこのうれしくない感じ。むしろ忌々しい。この絵の正体が分かってしまう自分が忌々しい。

「とりあえず向こう10年はこのシザーバッグを使うクマ!」
「言われなくても使うしかないだろうがー!!!」
「ホント、災難だったねハル……」

 そんなわけで、俺は翌日から、この球磨の落書き入りシザーバッグを使わざるを得ないハメに陥ってしまった……。

 とは
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