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鎮守府の床屋
前編
4.初戦
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 この鎮守府でバーバーちょもらんまを開店させた当時から、『球磨のアホ毛を成敗すること』を悲願としていた俺の耳が、球磨のこのつぶやきを聞き漏らすはずがない。

「切るのか?! ついにアホ毛を切るのか?! 切るんだな?!」
「い、いや? まだアホ毛を切るとは……」
「よっしゃ任せろ!! お前のアホ毛は俺が切ってやる!!」
「ど、どっちにしろ床屋はバーバーちょもらんましかないクマ」

 確かにそうだ。この鎮守府に所属する人間であれば、髪を切るところは俺のバーバーちょもらんま以外にはありえない。ということは、この妖怪アホ毛女は俺の店に散髪に来るわけだ……俺にそのアホ毛の引導を渡されるとも知らずに……。

「クックックッ……切れるぞ……ついにその忌々しいアホ毛が切れるぞ……クックックッ……ヌハハハハハハハ!!!」
「おおっ」
「は、ハルがはじけたクマ……」

 球磨たちと別れた後、俺は来たるべく翌日の球磨との決戦に備え、自身の道具のコンディションをチェックし、最高の状態にメンテナンスを施した。投げられたせっけんが突き刺さるほどの硬度を誇るあのアホ毛のことだ。ひょっとすると生半可なハサミや道具では切れないなんてこともあるかもしれんからな。相手は球磨だ。万全の状態で望まねばならない。おれは長い時間をかけ、自身の道具を隅々まで手入れしていった。

 そして今日……昨晩から高ぶる俺の精神テンションは今、床屋になって初出勤する前の、あの時の興奮に似た高揚感で満ち溢れている。この鎮守府に来て二ヶ月……この瞬間のために、ひょっとすると俺はこの地にバーバーちょもらんまを開いたのかも知れない……

「待たせたクマッ!!」

 初めてのデートを前に、期待と緊張が入り交じる複雑な心理状態で高鳴る胸を抑えきれない少女のような感覚で、俺が店を開いて数時間……ついにヤツが来た。ヤツは高らかに来店を宣言すると、俺に向かって不敵な笑みを浮かべながら入り口で仁王立ちをしている。

「来たな……妖怪アホ毛女ぁああ!!!」
「クックックッ……この球磨のアホ毛がハルごときに切れるかどうか見ものだクマッ!!」

 やってやる……やってやるさ! そのために俺はこの地にバーバーちょもらんまを……いやじい様の後を継いで床屋になったと言っても、過言ではないのだからッ!!

「いやぁそれは大げさでしょ」

 高ぶる俺の精神テンションに、冷め切ったツッコミを入れて水を差そうとしてくる妖怪マンガ女・北上を尻目に、俺と球磨は互いに近付き、視線を相手から逸らすことなく、ジッと相手を見据え、戦いの始まりを宣言した。

「いらっしゃいませ……今日は、どのように……?!」
「……任せるクマ……球磨の髪を……ハルのセンスで整えるクマッ!!」
「かしこまりましたッ……!」
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