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どんくさいヒーロー
第一章
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                 どんくさいヒーロー
 矢田恭介は自衛官だ、陸上自衛隊において真面目に勤務している。
 しかし運動神経は鈍くだ、しかもよくミスをする。
 それでだ、周囲からよくこう言われていた。
「要領悪いんだよな」
「どん臭いよな」
「動きも鈍いし」
「いつも失敗してな」
「体力はあってもな」
「運動神経も悪いし」
「力は強くても動きが鈍い」
 こう言うのだった。
「真面目なんだけれどな」
「いい奴でな」
「それでもな」
「動きが悪くて」
「困った奴だよ」
「曹候補学生あがりだったからすぐに幹部にはなったけれどな」 
 普通の軍で言う士官だ、三尉以上がこう呼ばれる。尚彼はその曹候補学生の最後の方である、かつて自衛隊にあった二年で下士官になれる制度だ。今は曹候補生となっている。
「それでもな」
「よく忘れてるんだよ、仕事も」
「出世コースからは外れてるな」
「どう見てもな」
「悪い奴じゃなくても」
「自衛官としてはな」
「鈍いな」
「困った奴だ」
 こう話すのだった、しかし。
 彼はいつも真面目に仕事をしていた、出来ないと言われていてもだ。
 一つ一つコツコツとしていた、その彼に部下の森下花苗三尉はこう言った。小柄で童顔だが防衛大学を出たエリートと言っていい立場だ。防大を卒業して研修の後すぐに矢田の部下になった。年齢は彼よりも六歳下だ。
「あの、二尉」
「どうしたのかな」
「はい、この書類ですが」
 彼の机のところに来てだ、彼が作成した書類を見せて話すのだった。
「こことここ、数字が」
「間違えてるかな」
「はい、ですから」
 それでというのだ。黒い髪を後ろで束ねているのが目立つ。そのうえで矢田の髪の毛を短く刈っている四角い顔にある丸い目を見て言う。
「訂正お願いします」
「うん、すぐにかかるよ」
 矢田は頷いてだ、すぐに仕事の訂正にかかった。森下は自分の席に戻ってそのうえで自分の仕事にかかる。
 その時にだ、森下は自分の仕事をしなたら矢田に尋ねた。
「あの、二尉」
「何かな」
「二尉についてですが」
「僕の評判だね」
「色々言う人がいますが」
 それでもと言うのだ。
「そのことは」
「仕方ないよ」
「そうですか」
「ただ仕事はね」
「それはですか」
「していくよ」
「今の様にですね」
 森下はここでこう言った。
「そうされるんですね」
「そのつもりだよ」
「そうですか」
「うん、それでね」
「それで?」
「森下三尉は僕に色々してくれるけれど」
「部下ですから」
 微笑んでだ、森下はこう矢田に答えた。
「それに二尉は私に何も言いませんよね」
「何も?」
「はい、私も出来ないですから」
「そうは見えないけれど」

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