第五章
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「そうです、先輩からですよね」
「こいつがね、私に裸になれって言ったのよ」
先輩を指さしつつ口をとがらせての言葉だった。
「ふざけてるでしょ」
「ええと、まあそれは」
「絵のモデルになってくれって言ってね」
「水着でいいって言っただろ」
「描くのは裸でしょ、そもそもね」
今度は先輩との話になっていた。
「水着って何よ」
「脱いでないだろ」
「女の子に水着姿ってになれって何なのよ」
「芸術の為だろうが」
「人前で水着になんかなれる筈ないでしょ」
顔を赤くして怒っての言葉だった。
「あんた馬鹿なの、そんなのだから私もプロレス技仕掛けるのよ」
「痛かったぞ、おい」
「痛い様にしたのよ」
「水着はアイドルの必須だろ」
「私はアイドルじゃないわよ」
「じゃあなれよ」
「ならないわよ、将来はナースさんになるのよ」
何か僕を放っておいての言い合いになっていた。
「というか今度そんなこと言ったら本当に容赦しないからね」
「だからもう二度と誘わないって言ってるだろ」
「あんたの言うことなんか信用出来ないわよ」
「いつもこんなのなのよ」
ここでだ、放ったらかしになっている僕にだ。二年生の女の人が言ってきた。バスケ部の部活の方から来ての言葉だ。
「この二人って」
「そうなんですか」
「もうね、何かあるとね」
「こんな感じで」
「言い合ってるのよ」
「そうなんですか」
「あんたも巻き込まれたのね、この二人が一緒になるとね
その人は苦笑いで僕に話してくれた。
「いつもこうだから」
「あまり、ですか」
「近寄らない方がいいわよ」
僕にその苦笑いで話してくれた。
「こうした喧嘩はね」
「放っておくことがですか」
「実はこの二人入学した時からこうで」
僕にお二人の事情も話してくれた。
「もう皆あえて何も言わないのよ」
「あえてですか」
「だって、犬も食わないとか言うでしょ」
「あの、それって」
その言葉からだ、僕も察した。
「つまりは」
「あと何とかをする程っていうでしょ」
「確かに」
「これでもね、この娘ね」
笑ってだ、親指で先輩と今も言い合うそのモデルになってくれと頼まれて猪木さんの技を浴びせた人を指し示しつつ僕に話してくれた。
「彼に何かあったらすぐに気遣い見せて実際に動いて彼もね」
「この人に何かあれば」
「ばればれに動くから」
「そういうことですか」
「わかるでしょ、君も」
「そういうことなんですね」
僕もお二人を見つつ頷いた。
「成程」
「それでね」
「それで、ですか」
「皆あえて言わないの、生暖かく見ているだけなの」
「そういうことですか」
「いや、困った二人よ」
確かに生暖かい顔だ、けれど。
その目は優しくてだ
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