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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百八十六話 遠征軍帰還
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さを理解出来ない、或いはその重さに潰されると権力が暴走します。民主共和政はその弊害を防ぐために主権の分散を考えたのでしょうが……」
ヴァレンシュタインが唇を噛み締めている。主権と主権者の関係か。集中させるか分散させるか、結局は主権者の質によって是非が問われる、正解など無いに等しい。何とも不安定な事ではある。
ヴァレンシュタインは現状では臣民は主権に伴う義務を果たせぬと見ている。それ故に待遇は改善すれども主権は与えぬという事なのであろう。憲法の柱は皇帝主権と基本的人権の尊重か。厳しいの、平民達はこの男を支持しておろうが或る面においてこの男は門閥貴族などよりもずっと厳しい評価を平民に下している。門閥貴族達は無知ゆえに平民達には主権など不要と考えた。だがこの男は良く知るが故に主権など不要と判断している。使いこなせぬというわけだ。
「卿、頼めるか?」
「憲法制定ですか?」
「うむ、先ずは草案の作成だの」
「時間がかかりますが?」
「已むを得まい。近々に憲法制定を閣議に諮る。その後陛下の御裁可を得て公表する」
「承知しました」
ヴァレンシュタインが軽く一礼した。本人も自分が創るしかないと考えていたのだろう、躊躇いは無かった。この男なら問題無かろう。改革を唱えたから民主共和政に好意的なのかと思ったがそうではないようだ。そして専制君主政を無条件に信奉しているわけでもない。ブラッケやリヒターにこの男の半分も冷徹さが有れば……。あの二人は改革にばかり目が行き地に足が着いていない、現実を見据えていない……。
「話しは変わる。畏れ多い事ではあるが陛下が退位を考えておられる」
「退位?」
少しは驚かぬか、だから可愛げが無いと言われるのだ。
「新帝国の門出には新しい皇帝が相応しかろうと仰られてな。フェザーン遷都後に位を退きたいと」
「アマーリエ様ですか?」
「うむ。卿は如何思うかな?」
ヴァレンシュタインが小首を傾げている。どうやらこの問題は想定外だったようだ。内心では驚いているのかもしれぬ。少しは表に出せば良いものを……。
「それだけですか?」
「……」
「区切りを付けたい、それだけだと?」
「いや、後継をはっきりさせたいというお気持ちも有るようだ」
「なるほど。……御気持ちは分かりますが……」
「時期尚早と思うか」
ヴァレンシュタインが“はい”と頷いた。
「十月十五日の勅令は陛下の御名の元に発令されました。新帝国の枠組み作りは陛下の治世においてなされるべきだと思います」
「なるほど、五箇条の御誓文が有ったの」
改革による新たな国創りを宣言されたのは陛下、新帝国創成はその集大成か。枠組み作りを陛下の治世においてというのはもっともな事ではある。影響力以前に筋の問題が有るという事だな。ここで退位は無責任と言われ
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