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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百八十六話 遠征軍帰還
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の考えを流した。しかし憲法、何処まで考えている? 確かめねばならん。今度はこちらがヴァレンシュタインをじっと見た。ヴァレンシュタインも見返してくる。
「憲法により国の形を示せば同盟人も納得するか」
「憲法を制定すると帝国政府が言うだけでも効果が有ると思います。もっとも期待と不安、その両方でしょう。しかし絶望は無くなると思います」
「そうだの。……主権は如何する?」
「皇帝主権を考えています」
「ほう、国民主権にはせぬのか?」
ヴァレンシュタインが苦笑を浮かべた。
「それをやれば同盟人達が議会制民主主義をと言い出しますよ」
「ふむ、反対か」
「現実的とは思えません」
今度はヴァレンシュタインがこちらに視線を向けた。強い眼で私を見返してくる。
「残念ですが民主共和政は運用が難し過ぎます。人類向きの政治体制では無いと思います」
「ほう、面白い事を言うの。では誰に向いていると?」
「さあ、神様とかそんなものでしょう。もっともそんな者が存在するのであればですが」
思わず吹き出してしまった。相変らず口の悪い男だ。それでは使えぬというのと同じではないか。だがヴァレンシュタインは私が笑った事が不満らしい。“笑い事では有りません”と強い口調で咎めてきた。
「新帝国が安定すれば人口も増えます。最盛期には六千億、いえ一兆を超えるかもしれません。主権者が増えるという事は責任が分散されるという事です。一兆人に責任を分かち合えと言ってどれだけの人間がそれを真摯に受け止めると思いますか? 主権者が増えれば増えるほど、つまり繁栄すればするほど責任の所在は曖昧になる。人類は衆愚政治の危機に晒される事になります」
「なるほど、確かにそうじゃの。となると銀河連邦が繁栄の後に衆愚政治に陥ったのも当然か」
私の言葉にヴァレンシュタインが頷いた。
「民主共和政を支持する人間は認めたがらないでしょうがそういう事なのだと思います。だから銀河帝国が、ルドルフ大帝が生まれたのでしょう。連邦市民は責任の所在が何処に有るかを明確にしたがったのですよ。そして自らの責任を放棄した。誰だって責められるのは嫌ですからね、気楽に文句を言える立場の方が良い」
「身も蓋もない言い方をするの」
人間は責任を負いたがらぬか、溜息が出た。ヴァレンシュタインもウンザリした様な表情をしている。
「こう言ってはなんですがルドルフ大帝が劣悪遺伝子排除法を創らなければ、臣民の基本的人権の尊重を宣言すれば民主共和政は過去の遺物になっていたかもしれません」
「……残念だがそうはならなかった」
そうなっていれば自由惑星同盟は生まれなかった可能性は有る。確かにヴァレンシュタインの言う通りよ。民主共和政は忘れ去られていただろう。
「皇帝の権力には制限が有りません。皇帝が主権の重
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