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一応は別人
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第一章

                      違う名前で
 井口忠則は声優が好きである。そのお気に入りの声優から観るアニメを決める人間である。
 それでだ。ネットやアニメ雑誌、声優雑誌を細かくチェックしてそのうえでお気に入りの声優の声をいつも聴いていた。彼にとってはそれが幸せだった。
 そしてだ。声優の仕事はアニメだけではない。他にもある。
 ゲームにも出ている。だから彼はゲームもチェックしてそのうえで楽しんでいる。彼にとってはゲームもまた、だ。声優の声を聴くことのできる楽しい世界なのだ。
 そんな彼だからお気に入りの声優の声は大抵覚えてしまっていた。それが昂じてさらにであった。彼はお気に入りの声優以外の声優の声まで覚えてしまった。このこと自体は彼にとっては誇りだった。ところがだ。
 ある日友人にだ。普通とは違うアニメやゲームを薦められたのである。そのアニメやゲームとは。
「ああ、十八歳以下お断りか」
「そっちのジャンルもどうだ?してみるか?」
「そうだな。じゃあちょっとやってみるか」
「大学生なんだ。そうしたゲームをしてもいいだろ」
 重要事項はそれでクリアーされた。十八歳以上ならば何の問題もない。これで許されることが世の中には実に多いのである。
 それを踏まえてだ。友人は彼にさらに薦めるのだった。
「それでどうだ?」
「観ずして、やらずして男じゃないだろ」
 これが返答であった。こうしてであった。
 彼はそうしたアニメやゲームの中でだ。友人お勧めの作品をレンタルし購入してだ。早速鑑賞及びプレイに入るのだった。するとだ。
 彼はすぐにわかった。画面の中で喘ぎ声を出しているその声優は。
「おい、この人は」
 彼がよく知っている声優だった。今日観たばかりのアニメで出演している声優だ。パッケージや説明書での名前は違うが声は明らかにであった。
 すぐにわかった。そのアニメでは可憐な役を演じているその声優がだ。そのゲームでは可憐は可憐だがここぞという場面では淫猥な顔になってだ。喘ぎ倒しているのである。それを聴いてであった。
 彼は唖然となった。そしてその他にもだ。

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