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逆さの砂時計
Side Story
無限不調和なカンタータ 8
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人間社会での生活に慣れるのが、異常に早かったから、か。観察してるだけじゃ身に付かない技術も見せてたよな。主に、刺繍、とか。あんなもの、他の村女の誰もしてなかった。というよりは、刺繍そのものを知らないのだろう。村人の普段着に、そういった飾り気はなかったからな。まさか、女悪魔の間で流行していた趣味だ、などとは言うまい?』
「そう。見かけなくて当然だったのね。表に出さなくて良かったわ」
『?』
「小さい頃に教えられてたから、一般的な物だと思ってたのよ。人前でする作業でもないし、皆自宅でひっそりやってるんだとばかり。考えてみれば、王族と平民じゃ違ってて当然ね」
『お、ぅ?』
「とっくの昔に滅んだ国での話よ。未練も興味も無いわ」
『…………』

 陽光を(さえぎ)る石壁の内側に隠された、正統な王の血を継がない王女。

 出生を秘匿していた王妃と何者かの間に生まれ育った当時は、言動に枷を填められ、足裏を直接地面に降ろす機会もなく、贈る宛てがない編み物や、たまたま聴こえてきた歌を覚えるくらいしか、やることがなかった。
 それが、ほぼ他人の親兄弟を滅ぼしてくれたどこぞの国のおかげで自らの意思と自由を手に入れたのだから、人生とはつくづくおかしなものだ。

 村中できゃあきゃあと走り回るコーネリアの子供達を涙目で見下ろし。
 彼女は肩の力が抜けたように、柔らかく微笑んでいた。

「アオイデー」
『なんだ?』
「アンタは、これからどうするの?」
『これから?』
「神々の気配が消え始めてるでしょ」
『……ああ』
「同族のところに戻るって言うなら」
『不要だ。私は堕天した身。天上には二度と帰らん』
「そ。じゃあ、頼みがあるんだけど」
『頼み?』
「私と契約して。アンタが神力以外で放つ音すべてを私の力で消し去るわ。ついでに気配も断つから、近距離で神力を使わない限りは、どんな相手にも見つからない筈よ。アンタがドジさえ踏まなければ、ありとあらゆる危険と生涯無縁でいられるってわけ。その代わり、これから先私に何かあったら、あの子達に『音』で伝えて欲しいことがあるの」
『伝言か』
「ええ。コーネリアが産まれる直前のカールの話、覚えてる?」
『いろいろ言ってたな。多すぎて、どれのことだか見当がつかんぞ』
「名前よ」
『ああ、あれか』
「アンタが見ている間に『調律』の力を持つ子供が産まれたら、あの名前を付けさせて欲しい。アンタなら産声で判るし。あれなら別に、男でも女でも不自然じゃないでしょ?」
『それは、まあ……しかし、聖天女(せいてんにょ)の力で世界中をやたらと跳びまくってたコーネリア達の『音』を辿る以上に面倒だな。自分でやれば良いだろうに』
「だから、何かあったら、よ」

 この時、既に予感があったのか。

 彼女
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