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逆さの砂時計
Side Story
無限不調和なカンタータ 8
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は少しだけ綺麗に切れてるよ!」
「はいはい。あんたの額もちょっと切れてるけどね」
「え? あ、本当だ」
『ここまで酷い不器用さだとは。お前、何故今まで生きていられたんだ?』
「んー……グリディナさんと会う為? だったりして」
「カール。それ、説得と違うから」
『嬉しいクセに』
「お黙り、非常食! その綺麗な羽毛、千切って売り飛ばしてやろうか!」
『あっはっは! 照れるな照れるな』
「グリディナさん、顔が赤いよ? 大丈夫?」
「うがーっ! もう、なんなのこいつらあ!!」

 目蓋を伏せれば浮かぶ情景に、彼女の頬は自然と緩んだ。
 誰かが隣に居る鬱陶しさこそが己の幸福だったのだと教えてくれたのは。
 何の皮肉か、彼女が棄てた筈の種族と、彼女を罪と吐き捨てた種族。
 賑やかで、騒がしくて、やかましい声。
 なのに、胸の奥をじわりと温める音。

『大好きです。グリディナさん』

 ゆっくりと穏やかに、けれど、あっさりと駆け抜けた優しい時間。
 失っても消えない温もりは、代を経て継がれていく。

『コーネリアは勇者達と共に、死んだようだ。戻ってくる気配はなかった』
「そう」
『止めなくて、良かったのか?』
「何を今更。アンタだって『子供を残して村を出て行く辺り、さすが母娘。行動までそっくりだなー』とか言って、笑ってたでしょうが」
『……すまん』
「あの子が自分で選んだ道よ。私達が口を挟む問題じゃないわ。でも」
『グリディナ……』
「バカみたいね、私。何の為にあの子を、村に託したのかしら。こうなると判ってたら……もう少し長く、一緒に居てあげても……、良かった……っ」

 見た目まだ若い未亡人が、村にどんな形で必要とされるのかを。
 彼女はよく理解していた。
 そして、長期間人里に留まって生きられない悪魔が、人間として産まれた娘の傍に居続けるのは、とても難しい。
 だから、離れた。

 いつかは必ず置いていく。
 ならば、新しい結婚相手を押し付けられる前に。
 コーネリアが幼いうちに、村を出て。
 でも、捨て切れなくて。
 人間には見つけにくい山奥から、ずっと……
 母親を待ち続ける小さな背中を、ずっとずっと、見守っていた。

 夫婦になったコーネリアとウェルスが、二人の子供達をウェルスの実家へ預けて勇者と長旅を始めてからは。
 アオイデーが勇者一行を。
 グリディナが村に残された子供達を。
 それぞれ、遠くからずっと、密かに見守り続けていたのだ。

『なあ、グリディナ。前々から尋きたかったんだが』
「ん?」
『お前、元々は人間の世界で生きていたのか?』
「……どうして、そう思った?」
『神にも悪魔にも大した意味を持たない、人間の『結婚』って言葉で露骨に動揺してたし。
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