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ソードアート・オンライン 穹色の風
アインクラッド 後編
心の温度差
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なった両脚で未舗装の道に踏み出す。足裏から伝わる仮想の音と衝撃を感じながら考えるのは、つい数秒前まで見ていた光景だった。
 皆が笑っていたあの工房で感じた温度差は、マサキがこの仮想空間に飲み込まれた“異物”であるということの、何よりの証明だった。
 そう、“仮想空間”。
 エミがマサキの袖を握り締めた緊張感も、
 リズベットが顔に出していた誇らしさも、
 キリトやアスナの笑い声も。
 全ては当人たちにとって現実と何も変わらない。だからこそ、ああやって心から泣き、笑い、誇っている。
 でも、自分は違う。
 マサキにとって彼らが浮かべる表情は、コンピュータグラフィックスが貼り付けたテクスチャでしかない。この空も、大地も、水も、空気も、全てがバーチャル、仮想なのだ。
 いっそ、この記憶さえ仮想であったなら。クリック一つで綺麗サッパリ消去できるような、デジタルなものであったなら。だが、それだけは仮想にならなかった。周囲全てが仮想の世界に取り込まれておきながら、“自己”という概念だけは仮想になることを許さなかった。この世界のそんなところが、たまらなく(いや)らしい。
「人を騙すには、嘘の中にほんの少しだけ真実をしのばせるのがいい」とは、本当によく言ったものだ――仮想の右手で仮想のドアを開けながら、マサキはそんなことを思った。
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