アインクラッド 後編
心の温度差
[6/6]
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
なった両脚で未舗装の道に踏み出す。足裏から伝わる仮想の音と衝撃を感じながら考えるのは、つい数秒前まで見ていた光景だった。
皆が笑っていたあの工房で感じた温度差は、マサキがこの仮想空間に飲み込まれた“異物”であるということの、何よりの証明だった。
そう、“仮想空間”。
エミがマサキの袖を握り締めた緊張感も、
リズベットが顔に出していた誇らしさも、
キリトやアスナの笑い声も。
全ては当人たちにとって現実と何も変わらない。だからこそ、ああやって心から泣き、笑い、誇っている。
でも、自分は違う。
マサキにとって彼らが浮かべる表情は、コンピュータグラフィックスが貼り付けたテクスチャでしかない。この空も、大地も、水も、空気も、全てがバーチャル、仮想なのだ。
いっそ、この記憶さえ仮想であったなら。クリック一つで綺麗サッパリ消去できるような、デジタルなものであったなら。だが、それだけは仮想にならなかった。周囲全てが仮想の世界に取り込まれておきながら、“自己”という概念だけは仮想になることを許さなかった。この世界のそんなところが、たまらなく厭らしい。
「人を騙すには、嘘の中にほんの少しだけ真実をしのばせるのがいい」とは、本当によく言ったものだ――仮想の右手で仮想のドアを開けながら、マサキはそんなことを思った。
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ