第十六章 ド・オルニエールの安穏
第六話 ゆめ
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婚、です、か……」
そう、マザリーニや母からの結婚しろとの攻勢から逃れるためであった。とは言えアンリエッタは、既に母たちの言葉に対する返事は決めていた。ただ、その返事は色々と覚悟や準備が終わっていないことから、まだまだ先伸ばしにしてしまいそうだ。特にこの件については事前に話を通さなければならない人がいる。
……それも結構な人数が。
中でも、まず最初に話を通さないといけない人がいる。
しかし、その件の人物は、最近やっと周囲が落ち着いてやっと平和を満喫出来るようになったというのに、またもや騒動を起こすのは流石に心苦しい。
とは言え、そう時間に余裕はないだろう。
時期を待つのも限界がある。
……覚悟を決めなければ。
何度も決意する―――だけど、何時も直ぐにその決意が折れてしまう。
理由は分かっている。
不安なのだ。
自分が受け入れられるかどうか分からない。
勝算がないわけではないし、何となく大丈夫な気はしている。だって彼は身持ちが硬そうな雰囲気とは反して、それはもう様々な女性と愛を交わしているような人なのだから。彼を良く知らない人ならば、女の敵と断じるのは避けられないだろう……あら? あながち間違ってはいないかしら。
わたくしも唇を奪われたことがありますし―――でも、そのキスは緊急避難的なものだったり、その場の雰囲気に流されたようなものだったりで……。
シロウさんがわたくしを欲してくれたわけでは……。
……ああ、駄目だ。
また、何時ものように悪い考えがぐるぐると回ってしまう。
不安なのだ。
どうしても……だから、それから目を逸らすために、紛らわせるために、政務に打ち込む。政務に打ち込んでいる間は、その忙しさに忙殺されて不安を抱く暇はないから……。だけど、ふとした瞬間……今みたいに気が抜けた時が一番だめ。胸の内が、不安でいっぱいになってしまうから……。
「―――……ぁ」
ぐるぐると駄目な思考が回るのを止めるため、強く瞼を閉じるが、一度回り始めたものは何であれ急には止まれない―――止められない。
暗い水底へどこまでも落ちていくような、凍えるような寒さと恐怖、不安が襲ってくる。
上手く息が出来ない。
呼吸が荒く、じっとりとした汗が全身から吹き出る。
「……っ」
溺れ水底に沈みゆく中、遥か遠く彼方に見える水面に震える手を伸ばす。
心と身体の苦しみに、涙が溢れる。
「……―――ん」
荒い呼吸の合間に、助けを求めるように、許しを請うように、彼の名を呼ぶ。
「―――っ、ぁ―――し、ロウ、さん」
震える、小さな、小さな声で名前を呼ぶ。
返事がないと知りながらも、どうしても呼んでしまう。
苦しい時、辛い時はいつもそう。
何
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