第十六章 ド・オルニエールの安穏
第六話 ゆめ
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もってはいるが、家具に劣化した様子は見られない。“固定化”の魔法でも掛けているのだろうと考えながら部屋を見回していると、士郎の視界に人影が浮かび上がった。
「―――ッ……ふぅ」
咄嗟に身構えるが、直ぐにその正体に気付き緊張を緩める。士郎の前には、壁に掛けられた大きな姿見があった。
驚いたのを紛らわすように苦笑を浮かべながら姿見に近づいていくと、突然鏡が輝き始めた。光は段々と大きくなり、やがて姿見が何時か見たゲートのような姿となった。
「…………さて、どうするか」
光り輝く鏡を前に、士郎は腕組をすると首を捻った。
「……っん…ぁ」
気怠い声に、ベッドが微かに軋む音が混じる。ほんの少し身じろぎするのも辛いほどの披露が、全身を包んでいる。もう指一本すら動かす気にもなれない。疲労を回復させるためにも、早く眠って身体を休ませなければ。
なのに、ずっと目を閉じているにも関わらず眠気は一向にやってこない。
ぼんやりとベッドの天蓋を見上げながら、アンリエッタは無理に寝ようとするよりも、もう少し政務を進めた方が良いかもしれないと考えるが、直ぐに苦笑と共にその考えを振り払った。これ以上、母や枢機卿に心配をかけるのは流石に心苦しい。
なにせ最近ずっとそうだから。
日が昇る前に始め、日が沈んで尚も続け、双月が天井近くまで昇った頃になってやっと終わる。初めは「あまり無茶はされないでください」と小言をいうだけだった枢機卿も、それが毎日のように続くとm無理矢理にでも休ませようとしてくるようになった。
今日も隠れて政務を勧めていると、枢機卿に見つかり仕事道具だけでなく、明かりが点けられるような物を全て持って行かれてしまった。せめてロウソクの一本くらいはとお願いしたが、「今夜は月が明るいですから」と聞く耳を持たれなかった。
だから今日はこれで終わり。さっさと眠ってまた朝から始めようと服を脱いで、薄いレースの下着姿のままベッドに入ったのはいいが、何時まで経っても眠気はやってこない。
「―――はぁ…………」
蚊の鳴くような小さなため息が溢れた。
激務の理由は、ただ単純に人手不足であった。今現在、マザリーニと共に勧めている計画は、秘密裏に事を進めなければならない。貴族、特に旧い貴族―――頭の固い下手に地位と権力を持つ貴族にだけは知られてはならなかった。だからこそ、使える人材は限られてしまう。そうなれば当然、一人当たりの負担も増えてしまうのは道理である。それがわかっているからこそ、マザリーニはぎりぎりまでアンリエッタの激務に口を挟むことはなかったのだ。
しかし、実の所アンリエッタがこうまで身を粉にして政務に励むのは、人材不足が理由ではなく、別の理由であった。
「……結
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