第十六章 ド・オルニエールの安穏
第六話 ゆめ
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完成していない。
何が足りないのかは分からない、ただ、何故か確信を持っていた。だからこそ、“失敗作”と処分することを躊躇っていた。
「何かが欠けている……そう感じはするのだが、どうすればいいんだろうな……」
悔しげに顔を歪ませていた士郎だったが、気分を切り替えるように目を一度閉じた。再度目を開くと赤い布で巻かれた剣から視線を外し、何とはなしに周囲を見回す、と。
「……ん?」
テーブルに置かれた魔法の道具から放たれる明かりが周囲を薄ぼんやりと浮かび上がらせる中に、奇妙な陰影を見つけた。石壁の一つに小さな影。壁の隙間から小さな突起が出ており、小さな影が出来ていたのだ。
士郎は直感的にそれが何かの仕掛けだと感じた。そしてこういう仕掛けの用途として、考えられるのは……。
「そう言えば、まともに調べてはなかったな……これは知られたらどやされそうだ」
脳裏に浮かぶのは満面の笑みで怒る凛の姿。部屋を禄に調べもせずに工房を造った事を知られたら、一体どんなお仕置きをされるか分からない。
士郎は突起のある壁の前まで移動すると、慎重に壁に触れた。
「解析開始」
士郎の脳裏に壁の向こう側が浮かび上がる。同時にトラップ等の危険性がないこともわかると、士郎は躊躇いなく突起を押し込んだ。ズズズ……と低い唸りを上げながら壁がズレ始める。音が止むと、士郎の前に人が一人ぎりぎり通れる程の通路が現れた。平均より上背がある士郎には狭いが特に問題はない。頭を下げ中に入ると、石で補強された通路をゆっくりと進んでいく。
「……やはり隠し部屋か」
二十メートル程進んだ先には、扉があった。
士郎が解析で判明したのは壁の向こうにある通路と、そしてその奥に扉がある所まで。この扉の奥に何があるのかはまだ分からない。慎重に扉に手をかけると、ゆっくりと押していく。
「ここは……」
開かれた扉の向こう。そこは十畳ほどの部屋であった。
“寝室”という言葉の通り、部屋に入りまず目に飛び込んできたのは大きな天蓋付きのベッドであった。部屋の中心に設置されたそのベッドは、遠目で見ても豪華な造りであることが分かる。近くにある箪笥の上に明かりを置き、士郎はベッドへと近付いていった。ベッドのカバーを手に取る。カバーは細かなレースで飾られており、肌触りは滑らかで明らかに高級品であった。部屋の隅に幾つか置かれた調度品も、詳しく調べてはいないが同じような高級品だろう。
「しかし何故、こんな所にこんな部屋が?」
避難所かとも思ったが、それにしては緊急用の食料品や物資が置かれていないのはおかしい。何よりもそういった雰囲気を感じない。困惑しながらも部屋の様子を確かめていく。うっすらと埃が積
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