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剣の丘に花は咲く 
第十六章 ド・オルニエールの安穏
第六話 ゆめ
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頭を振ると目的のモノ(・・)へと目を向ける。

「―――相も変わらず、か……」
 
 見つめる先、部屋の中に一つだけ置かれたテーブルの上に転がる赤い布で包まれた塊。
 無言でテーブルの隅に明かりを置き、赤い布を慎重に剥がしていく。
 赤い布の奥―――ソレは黒かった。
 黒い、と言うよりも、赤黒い錆の色にも、腐り落ちる寸前の腐肉の色にも見えた。
 今にも悪臭が漂ってきそうな不快な色に染まったソレは、形だけを見れば一振りの剣。片刃の僅かに反った刀身は、日本刀のそれに近いが、幅と長さは通常の日本刀よりも一回りは大きい。
 手を伸ばす。
 緊張に僅かに震える指先がその赤黒い刀身に触れ―――。

 ―――――――――ッ―――――

 ―――喰われる。 

「ッ―――!!」

 根源的な恐怖に襲われ、全身から一気に熱量が奪われながらも腕を勢い良く後ろに引く。
 ベリベリと指先の皮膚が剥がれる鋭い痛みが走る。引き寄せた腕が、僅かに傷付いた指先から力が抜け落ちたかのように、ダラリと垂れ下がった。
 ―――いや、ように(・・・)ではない。
 実際に、喰われた(・・・・)のだ。
 皮膚が剥がれた指先に血が滲み、球となった血が重力に従い床に落ちていく。

「……っ、はぁ……」

 滲み出る冷や汗を拭い、荒れた呼吸を落ち着かせると、剣に触れないように再び慎重に布を巻き直す。
 
「どう、判断するべきか……」

 ようやく戻ってきた感覚が確かめるように開いては閉じを繰り返して手を握り締めると、複雑な感情を込めた目線を赤い布を巻き直した剣へと向ける。
 凛から渡された素材を元に鍛ち上げた剣。
 つい先日鍛ち上がったばかりの剣は、有り体に言えば失敗作だった。
 醜い黒で染め上げられ、錆が浮いたように表面はざらざら―――見た目からして失敗に見えるが、何よりもまず問題なのは、まともに握ること、いや触れることさえ出来ないのだ。錆が浮いたような見るからにざらついた柄に触れると、喰われてしまうのだ。そう、文字通り食われてしまう。柄だけでなく刀身、いや、剣の何処かに触れると魔力から体温、肉体そのものまで剣に奪われてしまう。常人ならば下手すれば骨も残さず食われてしまうかもしれない。
 最早魔剣と呼ぶことさえ躊躇われる程だ。
 誰がどう見ても、失敗としか言い様がない―――しかし、何故か剣を造り上げた当の本人である士郎は“失敗”とは言い切れなかった。
 理由はわからない。 
 ただ、何とはなしに感じていた。
 
 この剣には、ナニカが足りない、と。

 しかし、剣を造り上げるための工程は全て終了しており、何かが足りないということはないと自信を持って断言出来た。しかしそれでも、湧き上がるものは同じ。

 ―――まだ、
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