第十六章 ド・オルニエールの安穏
第六話 ゆめ
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なかった。
「ご安心を、気を失っているだけです。誰一人として死んではおりませんよ」
灰色卿が呆然と立ち尽くす貴族たちに安心するよう声を掛けると、一人の貴族が震える声で尋ねる。
「こ、これはあなたの……」
「ええ。正確にはわたくしの雇った掃除人ですが」
ゴクリと誰かが唾を飲む音が嫌に大きく響いた。
三十人の手練の騎士を、すぐ隣の部屋にいた自分たちに気付きもさせずに倒すとは、一体どのような手を使えば出来るのか。それも誰一人として殺すことなく気絶させるだけで。騎士たちが倒れている踊り場や階段に壊れた箇所は見られない。暴れた様子もない。つまり、騎士たちは誰一人として襲撃者に気付くことなく倒されたということだ。そう、反撃の暇もない程の短時間のうちに……。
灰色卿の言う掃除人とは一体何者なのか?
一人なのか? それとも複数いるのか?
貴族の一人が目を覚まそうとするかのように頭を振った。
まるで騎士たちが倒れ伏した光景が悪夢のように感じたからだ。しかしどれだけ頭を振ろうと目の前の光景は消えはしない。
冷たく硬い現実が目の前に横たわるだけ。
震える貴族たちを前に、灰色卿は喜色を含ませた声を上げた。
「わたくしの雇った掃除人は、名誉の欠片もない戦いを身上とする者たちですが、その腕前はご覧の通りです。どうでしょうか、これならばあの男とて……」
「確かに」
「これ程の腕ならば……」
震えながらも掃除人の実力を感じとった貴族たちは、倒れた騎士の姿に忌々しい英雄の姿重なり歪んだ笑みを浮かべる。その姿を満足げに見つめていた灰色卿は、貴族たちの前に出ると倒れた騎士たちの背中にし、宣言した。
「それでは、そろそろ英雄には物語の中へと帰ってもらいましょう。英雄譚の最後はやはり英雄の死で終わるもの……。主演は勿論英雄であるシロウ・エミヤ……そして、その敵役とし―――」
灰色卿の口が開かれた時、図ったように終劇の合図が鳴った。
その余韻が消えぬ間に、灰色卿はその名を口にした。
「“元素の兄弟”」
光が灯る。
火の香りがしない明かりの正体は、魔法の道具だ。カンテラの様な形をした魔法の道具を左手に持ち、部屋の中へと入る。魔法の明かりは、炎のそれよりも強いが、それでもやはり今いる場所をくまなく照らし出す程の光量はない。
魔法の道具の明かりに薄く浮かび上がるそこは、窓一つない部屋であった。
決して広くはないが、狭くもない四方を石壁で囲まれたその部屋は、鍛冶場であった。部屋の中は、様々な刀剣類が抜身のまま壁に掛けられており、その中心には、その部屋が鍛冶場である証拠である一つの炉があった。
明かりを片手に暫く炉を見つめていたが、小さく
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