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剣の丘に花は咲く 
第十六章 ド・オルニエールの安穏
第六話 ゆめ
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りと濡れた舌で唇を舐めた。

「だから、だめですよ。ちゃんと、何時もみたいに呼んでくれないと」

 どこか舌っ足らずな、幼さすら感じさせる口調で甘く囁いてくるアンリエッタ。しかしその声とは裏腹に、蛇が獲物に巻きついて絞め殺すかのように、アンリエッタの足が、腕が、手が、男の身体に回される。

「あ、ああ分かった。アン、いいか、良く聞いてくれ。これは夢じゃない。いいか、夢じゃないんだ」

 身体に密着する身体の感触に、男はアンリエッタが現在裸であると悟る。
 ベッドから降りた時は、確かに下着を着ていた筈なのに、何時の間にッ!? と男は戦慄する。
 男の焦りと混乱は加速していく。
 しかし男はこれまでに襲いかかってきた理不尽により鍛え抜かれた精神力により崩れかかった精神を持ち直すと、人質のこめかみに撃鉄を起こした銃を押し付ける凶悪犯と交渉するネゴシエーターのように、男はゆっくりと落ち着いた声で慎重にアンリエッタに話しかける。一つ一つ言葉を区切り、頬に擦り寄るアンリエッタに語りかける男。
 男は直感で悟っていた。
 時間がない。
 このままぐずぐずしていると喰われてしまう、と。
 男の直感がガンガンと最大音量で警鐘を鳴らす。
 内心叫び出したいほどの焦りに苛まれながらも、鋼のような精神力でそれを押さえ込み、落ち着いた声音でアンリエッタを説得しようとする。
 ―――が、それは。



「―――それは素敵なことですね、シロウさん」

 

 既に遅きに逸していた。



















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 …………………

 ―――――

 ―――

 ――

 ―



「っ―――ぅ、っう、ゾっ、だ……ッ!!」



 ゴボリと、血塊を吐き出しながら少年は己の身に起きた現実を否定した。
 決して大柄とは言えない身体を、両の手では数え切れない穴を文字通り開けられながらも、自身の身体から溢れ出た血と泥が混じりあった泥濘に溺れながらも、それでも認められないと。
 何故ならば、有り得ないからだ。
 例えもはや指一本すら動かせなくとも。
 例えカチカチと寒さとは異なる理由から身体を震わせながらも。
 自分が、自分達が負ける事が―――こんな風に負ける事が有り得ないからだ。
 確かに、これまでにも強敵と呼べる者はいた。
 追い詰められたことも、なくはない。
 しかし――
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