第3章 黄昏のノクターン 2022/12
36話 黒刃の鷹、赫眸の将
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。僅かばかりの時となりましょうが、お見知り置きを……ノルツァー閣下」
初めに聞いた肩書と大きく異なるティルネルの素性に首を傾げそうになるが、敢えて話に騙されたかたちで聞いておくとしよう。幸い、誰も気づいてはいないようだ。
「私がここにいる理由はお分かりですよね?」
「既に作戦が漏れていると、言いたいのか?」
「ええ、それも三ヶ月も前から情報を得ていました……間もなく、リュースラの精鋭がこの洞を訪れ、フォールンを一掃するでしょう。名誉の死をお望みならば、どうぞご自由に」
相手のプライドをズタズタに引き裂くような冷酷な言葉ではあるが、敵に塩を送るとも思えるような側面も見受けられる。
一瞬の逡巡の末、将軍――――ノルツァーは剣を鞘に納め、声高に叫んだ。
「諸君、この拠点を放棄する! 至急カイサラ隊に伝令を送り、この層より撤退せよ!」
司令官の指示を受けると、乱戦の最中にあったフォールン達は一斉に煙幕を放ち、素早く戦線を離脱していった。最後にノルツァー将軍に一瞥されるや否や、彼もまたゴンドラを足場に跳躍し、漂う煙幕の中に姿を消していった。
煙も晴れ、視界が開けた頃には匕首や柳葉刀を持ったマフィア達が敵の敗走を知って鬨の声を上げるのを聞きつつ、強敵との戦闘による緊張から解放されたこともあって一気に身体が重くなる気さえした。
………そして、完全に気が抜けてへたり込んでしまった黒エルフのお姉さんと目が合い、突如として否定された。
「ち、違いますよ!? 私はホントにタダの薬師なんですから!!」
「それにしては、随分と真に迫っていたんじゃないか」
というより、別に騎士団在籍を頑なに否定しなくても良かろうに……
「コルネリオさんが言ったんです! 護衛中に耳打ちされたんです!?」
「いやいや、私としては彼等が得られるはずだった利益を無駄にしたかっただけだしね。これはこれで立派な勝利というものさ」
清々しい顔で宣うマフィアのボスには思うところがないでもないが、しかし、ティルネルから僅かに話を聞き、それにこれまでの報告書の情報を加味した上でティルネルに即興劇を演じさせたにというならば、それだけでノルツァーを化かしたこの男の腹の底はとうとう知れない。
標的である黒エルフがこの場に居れば、確かに作戦が看破されたことを疑うだろう。
加えて、更に黒エルフでも国家の上層が把握しているとすれば、むしろ作戦を続行することさえ危険な行為となろう。
本当は黒エルフの国には一切知られていない筈なのに、それだけの情報を見せるだけでノルツァーの心理を揺さぶり、逃がすことで戦闘を終結させた。殲滅にさえ拘らなければ、十分に勝利と呼べる。
………本当
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