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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第三十二話 真相(その2)
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一つお聞きしたい事があります」
「欲張りじゃの、まあ良いわ」
「恐れ入ります。何故、陛下の統治を助けようとはしないのです」
「……」
「閣下は凡庸である事を演じておられる。しかし本当は陛下のお傍で陛下の統治を助ける事が出来るはずです、違いますか」
この老人はボケ老人などではない。何故表に出ないのか。
「……卿はリヒャルト皇太子、クレメンツ皇太子の事件を知っておるかの」
「はい」
「あれはの、わしの所為なのじゃ」
「! まさか」
先帝オトフリート五世には三人の男子がいた。皇太子リヒャルト、次子フリードリヒ、末弟クレメンツ。勤勉な皇太子と行動力に恵まれた末弟クレメンツ、その間に挟まれた凡庸なフリードリヒ。やがて皇太子リヒャルトとクレメンツ大公の間で熾烈な後継者争いが生じる。
正確に言えば両者の取り巻きたちによる抗争だった。勝てば権力者への道が開かれ、敗者には没落が待っていた。そして帝国暦452年皇太子リヒャルトは父帝への謀反の罪で死罪、彼の廷臣六十名も処刑された。しかし、新皇太子クレメンツも帝国暦455年故リヒャルト皇太子に冤罪を着せたとして廷臣百七十名が粛清、皇太子自身も”偶然の事故”により爆死した。
「陛下は愚かなお方ではない。いや、むしろ聡明と言ってよいじゃろう。そのお方が凡庸と言われたのは争いを好まなかったため自ら韜晦をなされたためじゃ。じゃが皇太子リヒャルト殿下もクレメンツ大公も、そんな陛下に気付かず愚弄し軽蔑した。許せなんだのは取り巻きたちじゃ。一緒になって陛下を愚弄したのじゃ」
「それで、罠にかけた…」
「罠にかけるもなにも、ちょっと煽っただけじゃ。わしはその頃自分にそのような才があるなど気付いておらなんだ。お二方が滅んだ事で始めて気付いたのじゃ。それまではごく平凡な、いや凡庸な貴族に過ぎなかった」
この老人は四十を過ぎるまで自分の謀略家としての才能に気付かなかったというのか。
「お二方が滅んだ後で、陛下は気付かれた。何者かがお二方を罠にかけたと。そしてわしに気付いた。陛下はの、お怒りにはならなんだ、ただ悲しまれただけじゃ。しかしわしにはその方が辛かった…」
「陛下は何故、今も凡庸な振りをしているのです」
「わしのためじゃ。もし英明さを発揮したらどうなる。皇太子リヒャルト殿下、クレメンツ大公を罠にかけ屠ったのは陛下だと皆思うじゃろう。そして陛下の意を受けて動いたのはわしじゃと思うに違いない。そうなればわしはどうなる。周囲から忌み嫌われ滅びの道をたどるに違いない。大公時代の陛下に従う廷臣はいなかった。わしだけが陛下に従った。陛下にとってわしは臣下であって臣下ではなかった。陛下はわしを守るため、あえて凡庸な振りを続けられたのじゃ」
「…皇帝の闇の左手に任じられたのは…」
「陛下が
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