Side Story
無限不調和なカンタータ 7
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カールの視線をバッチリ捉えてしまった。
……なに?
妙にまっすぐな目で見られてる?
「グリディナさん、言ってたよね。命の使い方を熟知してるから、ためらう必要なんかないんだって」
「? ……ああ、食事の話ね。言ったわよ? で?」
なんとなくゆっくり退いた左手を。
またしてもカールの両手が柔く包み込み、自身の胸元へと引き寄せる。
「僕は、初めて私を必要としてくれた貴女の為に、この命を使いたいです。私の歌で貴女を癒せるのなら、声が続く限り貴女の傍で歌い続けましょう。
ですが、私は貴女と違い脆く頼りない人間です。限りある時間を少しでも長く生きるには、健康体として生活していける環境が必要不可欠。しかし、残念ですが、私の体では、たとえ貴女の庇護があっても、この森での生活に長期間耐えられる自信がありません。
だから、私を村で、人間として生かしてください。
集団生活で多少なり保証される生存日数と、いつ途切れるとも知れない、不確かな森での時間。貴女から見ればわずかな差でしかないと思いますが、その時間差分を含めて、私の歌を……私のすべてを、貴女の物にすること。
許していただけますか? グリディナさん」
「……………………っ!!」
信じらんない……こいつ、自分で自分を道具にしやがった!
私が求めてるものを正確に理解して、取引に利用してる!
確かに、この森で無力なカールを長く生かすのは難しいわ。
物理的な傷害からだったら、体を護るのは簡単だけど。
人間は軟弱で、種々様々あらゆる病気になりやすい。
病気になる原因の大半は、人体にとって有害な菌や微生物の侵入に対する防御や拒絶反応が主で。実際のところ、人間と侵入者、どちらも正常だから引き起こされるもの。『音』や『波』で正せる歪みとは違う。
大量に入り込んだそれらだけを狙って変質させるのはさすがに難しいし。
ある程度の予防や症状の緩和くらいはできるとしても。
根本的な治療となると、私じゃ手に負えない。
だからって、ヘタにカールの体を作り変えるのもダメだ。
特性じゃないカールの歌は、何をきっかけに失われるか分からない。
今日明日にでも何かしらの疫病を拾って倒れたら、その時点で終わりだ。
加えて、森の中には毒性の植物が多い。
こいつの様子からして、ちょっと目を離した隙に、食料認定した毒生物をパクッとか……
やりかねない。
本気でやりかねない!
ここじゃ危険が多いのは事実だ。
いろんな意味で!
「あと、これは可能性の話なんですが……」
握る手に力が入ったかと思えば、急に目線が泳ぎ出した。
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