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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第三十話 疑心
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人でできた事では有りません。ミュラー副参謀長の力が大きかった。ですから二階級昇進ならミュラー副参謀長も一緒に、とお願いしたのです。ですが認められませんでしたので、私も辞退したのです」
「それで小官を変わりに」
「まあ、そうなりますね。気を悪くしましたか?」
「いえ、そんな事はありません」
准将は ”それは良かった” と言うと柔らかく笑った。
「グリンメルスハウゼン艦隊はどうなるのでしょう?」
「解体されるでしょうね」
「解体ですか」
ヴァレンシュタイン准将が引き継ぐ話は無くなったのか……。
「グリンメルスハウゼン閣下は事実上、軍を引退する事になると思います。もう御歳ですし出征は無理でしょう」
「では、准将閣下の次の役職は?」
「宇宙艦隊司令部作戦参謀の内示を受けています。あくまで内示ですが」
宇宙艦隊司令部作戦参謀……軍主流を歩いていると言っていいだろう。
「おめでとうございます、副官は決まったのでしょうか?」
「ええ、ヴァレリー・リン・フィッツシモンズ中尉が副官になります」
「ヴァレリー・リン・フィッツシモンズ?……」
女性?、それにしても妙な名前だな?
「ええ、同盟軍、いや反乱軍からの亡命者です」
「亡命者ですか?」
「ええ、今回のヴァンフリート4=2で亡命してきたのです。ただ女性ですのでね、妙なところに勤務するよりは私の副官のほうがいいだろうとリューネブルク少将が頼んできたのです。既にハウプト人事局長に頼んで了承をえています。まあ、私のところへ来たがる副官などいませんからね、ハウプト人事局長もちょうどいいと思ったようです。少佐ならわかるでしょう」
「はい」
若すぎるのだ。二十歳の将官のところに来たがる副官などいるわけが無い。まして准将などという中途半端な立場ではなおさらだ。ラインハルト様も私がいなかったら副官人事では苦労したろう。それにしても亡命者を副官か…。
あのヴァンフリート4=2で亡命者というと内実は捕虜なのかもしれない。リューネブルク少将の顔見知りか。困った少将がヴァレンシュタイン准将に頼んで地位を確保したと言う事か。リューネブルク少将はヴァレンシュタイン准将を頼りにしているようだ。准将もそれに応えている。なんとなく嫌な感じがした。ラインハルト様はリューネブルク少将の力量を高く評価していた。但し、余り好意はもてなかったようだ。俺を子ども扱いすると言って……。
「先程、おめでとうと言われましたが、あまり嬉しい人事ではありません。飼い殺しですからね」
「飼い殺しですか?」
「何をしでかすかわからない人間は、首輪をつけて傍に置いてこうという事でしょう。随分好き勝手をしましたからね」
「閣下の用兵家の力量を買ってのことだと思いますが」
「いいえ、それは無いでしょうね
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