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4部分:第四章

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第四章

「鰻をな」
「それがよくわからないのですが」
「鰻を切らせた理由がです」
 警官達は話を聞いてその首をさらに傾げさせることになった。何故ここで鰻を出したのかも切らせたのかも彼等にとってはわからないことだった。
「それは何故ですか?」
「どうしてなのでしょうか」
「大阪では鰻は何処から切るか」
 署長はここでこのことを言ってきた。
「それは何処だ?」
「腹からです」
「そこからです」
 こう答える彼等だった。
「それが何か」
「そこにあるのですか」
「だが東京では鰻は背中から切る」
 署長はこのことも話した。
「背中から切るのだ」
「となるとあの男は」
「そうしたのですか」
「そうだ。それでわかった」
 署長はさらに話してきた。
「東京、江戸はだ」
「江戸ですか」
「古い話になりますね」
「侍が多かったな」
 百万の人口の中の半分が武士だった。江戸は武士の町だったのだ。
「侍には切腹がある」
「腹を切る」
「では」
「鰻であっても腹を切るのは不吉と考えられていた」
 これはげん担ぎである。しかしそれでもそれを気にするのも人間だ。とりわけ武士という元々戦を生業とする者達はである。
「それでだ。背中から切ったのだ」
「それでわかったのですか」
「あいつが犯人だと」
「そうしたところでわかるのだ」
 署長はまた話した。
「背中から切ってだ」
「成程」
「切り方一つでわかるんですね」
「他にも些細なことからわかるものだ。覚えておくといい」
「はい、わかりました」
「それでは」
 署長のその言葉に頷く彼等だった。彼等にしても大きな勉強だった。鰻の切り方一つからも事件が解決する、実に大きな勉強だった。


鰻   完


                2010・3・14

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