暁 〜小説投稿サイト〜
八神家の養父切嗣
二十一話:愛ゆえに
[2/7]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
すぎる話だろう。
 彼らの恨みがましげな視線がその証拠だ。ただ何も言わずに見つめてくるのだ。
 息などしていないはずなのに、瞳だけは蠢いていて彼にものを伝えてくる。
 ―――裏切り者と。

 気が狂いそうになる。その視線を受けただけで死んでしまうのではないかと錯覚する。
 しかし、そんな甘えなど許されない。死ぬことなど決してできない。
 ここにいる者達全てを救い出さなければこの悪夢は終わらない。
 だが、誰も救えない。伸ばした手は誰にも届かない。当たり前だ、もう死んでいるのだから。
 死者が生き返るはずもない。それは誰よりも人を殺してきた彼だからこそよく分かることだ。

 だからこそ、願ってしまう。彼らが全員、生き返ってくれるのならどれだけ嬉しいかと。
 彼らだけではない。今まで理不尽に犠牲となった者達全てが生き返るのなら、自分は解放されるのではないかと、錯覚してしまう。
 本当はそんなことなどあるはずもない。罪が消えることなどあり得ない。
 罪と善行は別物だ。どれだけ善行を積み上げようとも犯した罪は一生消えない。
 許されることなどあってはならない。何よりも自分が納得できない。
 だから―――


『ねえ、ケリィ』


 自分はこの地獄を永遠に彷徨い続けることしか許されない。
 目の前には彼女が居た。かつて救うことを放棄した少女が居た。
 昔は夢の中でも会えればそれだけで嬉しかった。だが、今となっては悪夢でしかない。
 彼女は衛宮切嗣の罪を映し出す鏡と化していた。

『ほら、やっぱり君は誰かを救うことができたんだよ? 私は助けてくれなかったのに』

 思えば、以前見た夢の中の自分と同じ行動をしたのだ、自分は。
 生存者など誰一人として居ないような火事の中を走り回った。
 そして、小さな命を、手を握ることに成功していた。
 決して諦めずに走り続け、小さな救いを得ることができた。
 あの夢の自分は可能性としての自分ではなく、未来の自分だったのだ。
 もはや、言い逃れはできない。

「僕は……僕は―――君を救えた…ッ」
『そうだよ、ケリィは私を助けられたんだよ。私だけじゃない、みんなを救えたんだよ』

 他ならぬ自分自身が証明してしまった。救えた、絶望的な状況から人を救えた。
 死ぬべき運命から助け出してしまった。その結果救われるべき人間を殺してしまった。
 だとしても、今まで見捨ててきた人々が救えたことに変わりはない。
 全てを救うなんて所詮は絵空事だ。必ず、誰かが犠牲にならなければならない。
 見捨てた者を救えば、救ってきた者達が救われない。
 当たり前だ。彼の腕は全人類を抱えられるほど大きくはないのだから。

『でも、君は諦めただけ。理屈をつけて切り捨てただけ。

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ