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真田十勇士
巻ノ二十九 従か戦かその七

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「殿が決められます」
「上田ではないやもですな」
「左様です」
「ならば尚更です」
 そのことも聞いてだ、昌幸は使者に返した。
「そのお話は引き受けられません」
「しかしです」
「万石ですな」
「そしてお立場も」
 石高だけでなく徳川家の中のそれもというのだ。
「相当なものですが」
「ですか」
「全てお約束します、我が殿は真田家を高く買っておられまして」
「五万石にですな」
「家老格の中でも相当にです」
 高い地位をというのだ。
「考えておられます、あとご嫡男の縁組も」
「そちらもですか」
「欲しいものも何でもとです」
 今度は宝の話だった。
「刀でも馬でも」
「そうしたものもですか」
「言ってくれとのことです」
「それだけそれがしを買っておられますか」
「確かに石高は半分になり上田から出られるやも知れませぬが」
 それでもというのだ。
「それ以上のものがありますが」
「ですか」
「そうです、ですから」
 是非にという口調での言葉だった。
「当家にお入り下さい」
「ですか、では」
「はい、ご返答は」
「変わりませぬ」
 これが昌幸の返事だった。
「折角の申し出ですが」
「それでは」
「真田は真田です」
 こう返すのだった。
「この上田におります」
「十万石で」
「左様です」
「しかしです」
「いえ、地位や刀もです」
 そうしたものはというのだ。
「いりませぬので」
「だからですか」
「その申し出をお断りさせて頂きます」
「それで宜しいのですか」
「そうです」
「ですか」
 残念な顔でだ、使者は応えてだった。
 それ以上は何も言わず駿府に帰った、言う必要がなかったので言わなかったのだ。その使者を見送ってから。
 昌幸は二人の息子と重臣達を集めてだ、こう告げた。
「戦じゃ」
「はい、やはりですな」
「そうなりましたな」
「徳川家は五万石を約束してきた」
 昌幸は主の座からこのことを話した。
「そして徳川家中での家老職と宝もな」
「破格の話ですな」
 信之は父の言葉を聞いてこう述べた。
「外様の者を迎えるにあたって」
「そうじゃな、しかしな」
「当家は、ですか」
「この上田から離れぬ、そして五万石ではなくじゃ」
「十万石ですな」
「それ以上はいらぬがそれ以下もいらぬ」
 それはというのだ。
「だからじゃ」
「それで、ですか」
「徳川家の話を断った」
 そうしたというのだ。
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