竜と詠む史は
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状況になるはず。
くるりと仰向けになって天井を見つめた。知性の光が宿る瞳は、ゆらゆらと揺れる蝋燭の灯りを入れて輝きを増す。
一つ。彼女の心に湧く感情があった。
コレを煮詰めたのは詠と秋斗だが、思いついたのはやはり彼一人。それが只、恐ろしい。
――未来が見えてるんじゃないか、なんて思いたくなるくらい……秋斗の思考回路は異常だ。
益州が辿る道筋を、益州に辿り着いた時点で彼は読んでいた。否、彼は只、そっと確率が高くなるように誘導しただけ。
軍師とも、将とも、王とも違う彼の思考は詠には理解出来ない。
しかし彼は、詠であればこの程度思いつくと肩を竦めて自信なさげに笑うだけ。腹立たしくも、やはり恐ろしい。
――黒麒麟がまだ敵にならないように、ボクも手は打った。益州ではきっと大丈夫。
彼には話していない事柄が、一つ。大切なモノを繋ぎ止める為ならば。
きゅっと胸に下げた銀細工を握りしめて、彼女は目を瞑った。
――……刻限はあと、一月。朱里が帰ってきたから、ボク達はもう何もしないでいい。後は最重要地での合流を図るだけ。
一つ一つと策を練る。確認するように脳髄に刻み、彼女は大切なモノを離さない為に積み上げる。
劉備軍はもはや掌の上。彼女は何も恐れていない。黒が描いた道筋からは、劉備軍は逃れられないのだから、と。
人の心を操る黒は、利用できるモノは全て利用し尽す。
それが例え、敵であろうと。それが例え、己を想っていた少女であろうと。
――だって……朱里は秋斗の策に溺れずに居られない。黒き大徳からは、もう逃げられない。
真面目な思考に反して、もやもやとまた心に野暮ったい雲が湧く。
此れは嫉妬。はっきりと分かる。恋敵となりそうな輩に対しての感情は、星との邂逅で認識済み。
もうすぐ来るであろう伏したる竜。懐かしい彼女の姿を思い描き、イヌミミフードの軍師は不機嫌を眉間に寄せて呟いた。
「あげないわよ、朱里。秋斗は……ボク達のなんだから」
†
夜の闇が色濃く染まる頃合いに眠ってしまった少女の髪を優しく撫でやり、睨みつけてくる共連れの女にひょいと渡してみせた。
「……心配なさんな。なんもしちゃいないよ。話してお菓子食べてただけだ」
衣服の乱れも、独特の色香も感じられない様子にその女はほっと胸を撫で下ろす。
豪族の子女の御付きらしい。やれやれと頭を掻いた彼はゆるりと笑って空を見上げた。
「好きに生きればいい。そういった育て方してやんな。親のいいなりになりつつも、時が来たら親を取って食っちまうような女になれって」
「……その結果が袁家ですか」
「随分と聡明な侍女さんなことで。まあ……そうさ。子供が
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