竜と詠む史は
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いいよ。でもなんでそんなに怒ってるか聞いていいか?」
霧散した威圧、消えた殺気。僅かに穏やかになった空間にほっと一息。
理由を尋ねて合わされた瞳には、まだ不機嫌さがあるものの怒りの矛先は別にあると思えた。
「別に怒ってない」
「怒ってたよ」
「怒ってないわよ!」
「ほら! 怒ってるじゃん!」
「う……くぅ……別に、怒ってなんか、ないし……ちょっとイライラしてるだけ」
「ちょっとどころじゃないと思うけど。とりあえず教えてくれよ。あたいじゃわかんないもん。なんか出来ることあるならしたいし、アニキと詠が仲良くない感じこれ以上続いたら嫌だしさぁ」
「……」
ぎゅうと、詠が拳を握る。唇も噛みしめていた。どうして此処まで話したがらないのか、猪々子には分からない。
だが、先程とは違う点が一つあった。詠の顔が、耳まで赤く染まっている所だけがその差異。首を捻り幾瞬……おずおずと、聞き取れないような声が詠の唇から零れる。
「……だ……秋……使者……もん」
「……? なんて?」
「だっ……秋斗と……使者の……に……れして……からっ」
聞き返すもやはり声が小さい。耐えかねた猪々子が耳を寄せようとした瞬間、詠がキッと睨みを聞かせて大声を上げた。
「だって! 秋斗と友好を結ぶ為に連れられて来た使者の娘に! それも! まだ元服もしてないような幼い女の子ばっかり! その子達とご飯食べたりべたべたされたりしてあのバカがデレデレしてるからっ!」
突然の大声によってキーン、と耳鳴りが響いた。くらくらする頭、咄嗟に抑えた耳、どうにか頭を振って落ち着かせて、やっと彼女が語った意味を理解する。
劉璋との謁見が終わり十日以上。一月との時間制限を設けたことで、時を於いて訪れるモノも出てきた。
とあるモノは内密に交渉をしようとして。
とあるモノは此方の情報を探ろうとして。
とあるモノは偽りの友好を築こうとして。
とあるモノは服従の意を示そうとして。
小さな豪族から大きな豪族まで、本人が直接来ることは無いが、何れも使者を使って何らかのアクションを取って来ていた。
繋がりを持たせるという意味では政略結婚というのは一つの手段だ。許昌に居た時も少なからずそういった申し出は来ていたし、劉備軍に所属していた時も同じように在った。
だが、遠征してきている彼に対してそういった手段を講じるというのは異質に過ぎる。彼の趣味嗜好は別としても、敵対している勢力の客将如きに取り入るというのは、長く政略に携わってきている詠からしても下策と断じていた。
実際、秋斗は取り合っていない。連れてこられた少女と自分がどうこうなるなどまず無い。詠とて分かっている。秋斗はただ諭して聞かせるだけだ。色恋についてお堅い彼が、いきなり
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