竜と詠む史は
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苛立たしげな表情は不機嫌さをこれでもかと表し、それでいて黙して語らないのでその理由も分からずじまい。
どうしていいか分からずおろおろする猪々子は、机の上の食事をいつもよりも遅いペースで食べていた。
ちらちらとその不機嫌な彼女――詠を見やりながら。
「……」
今日の料理はカレーだった。固形化して持ち運び出来るルーが出来上がったのは出立前。保存にも便利であった為、兵士達も待ちに待った御馳走に舌鼓を打っている……が、詠はそんなごちそうを前にしてスプーンを手に持ったままカレーを睨みつけるだけであった。
成都の街から一寸離れた陣内。詠の天幕の中は居辛い空気がたんまりと。
直接聞いていいものか、それとも自分から話しだすのを待つべきか、猪々子は悩む。
大凡の理由は分かっている。詠が不機嫌になる理由は決まって秋斗が関わっているのだから。今回もそれだろうとは思うが、何故怒るのかが分からない。
現在、秋斗は陣に訪れた使者の対応をしていた。
詠の方が正式な文官であるし、本来であれば二人で迎えるのが通常であろう。しかれども、ここ最近に陣を訪れる使者は少し毛色が違うモノだった。
猪々子には分からない。詠の不機嫌な理由は分からない。
一度目の使者を詠は笑って流していた。二度目の使者に詠は笑いながらも呆れていたようだった。三度目になるとこめかみに僅かな青筋を立てつつも笑って流した。そして四度目が今……無言のまま秋斗に任せて目の前の様子である。
何度かは笑って対応していたから、猪々子には分からないのだ。
反して、徐晃隊は分かっている。詠の不機嫌な理由を徐晃隊達の皆は理解し、にやにやと茶化す時の笑いを浮かべつつ、詠という虎の尾を踏むことはしない。
「な、なぁ、詠?」
「……」
威圧と殺気を込めた視線が猪々子に向いた。何も言葉は出ていないのに、武器も持っていないのに、猪々子は此処が戦場であるかのように錯覚した。
それでも、ぐ……と腹に力を込めて視線を外さない。逃げても何も変わらないと思った。この目の前の恐ろしい鬼に立ち向かわなければ、日に日にぎくしゃくしていく秋斗と詠の関係は改善されないと思ったから。
「アニキとなんかあった――」
「なにもない」
「ひっ……そ、そうか」
けれども、彼の話題が出た瞬間に膨れ上がった殺気に、猪々子はへたれてしまった。
哀しいかな、いかに武将と言えども、徐晃隊達がさわらぬ神にたたりなし、というような状態と見ている詠相手では分が悪かった。
逃げちゃダメだ、と何度も何度も心の中で唱えて漸く、猪々子は意を決して口を開く……前に、詠が大きな、とても大きなため息を吐き落とした。
「はぁ……ごめん。八つ当たりするつもりはなかったんだけど、さすがにね」
「い、
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