竜と詠む史は
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と出来る。不信を抱いたままの劉璋軍を叩きのめすのは分かりやすく、貴女にとっても願ったりのはず」
「それは――」
「それよりもこんな話は止めておきませんか? 私と愛紗さんが探り合うことこそ意味がありません。互いの想いがどうであれ、思想がどうであれ、桃香様と共に歩むと決めた仲間、なんですよ」
自分で言うと安っぽくなるな、と想いながらも朱里は言い切った。
事実、愛紗は苦い表情で悩み始めた。素直な彼女のことだから、飲み込むことなど出来ないとは思う。今回は朱里も推し通すつもりだが。
「とりあえず、桃香様はご自身で立ち直って頂くしかありません。鈴々ちゃんは護衛として、愛紗さんは仕事の補佐として側付きしてください。始まりの三人で共に居る方が心にもいいはずです」
「……ああ。しかし、朱里はどう動く?」
「私は……」
一寸言葉に詰まった朱里は、笑った。艶やかに、涼やかに。
元より逃がす気はない。恋焦がれる愛しき男を、鳳凰の元になど返す気はない。
――彼は逃がしません。でも、益州は彼の思惑からは外れられない。
しかし、彼の策は打ち破れない。
劉璋と劉備を共に立てることは、朱里の描く未来には存在していない。
諦観が抵抗にすり替えられたこの大地で、黒き麒麟が引いたイトを彼女も手繰る。
久方ぶりの共同作業。僅かに頬を染めながら、朱里の心がトクリと跳ねる。
「より上手く廻るように幾つか策を重ねます。個人的な動きはまだ……ただ、彼には会っておかなければならないでしょうね」
直ぐにでも会いに行きたい。叶うならば今すぐにでも。
近くに居る。それだけでこれほどまでに胸がときめく。抑えがたい激情は身を焦がし、朱里の脳髄を甘く軋ませる。
熱い、甘い吐息を吐き出した朱里を見て、愛紗は盛大なため息を吐き出した。
「昔の彼とは思わないことだ」
「はい」
「憎しみは持っていないと言っても、黒麒麟は敵には容赦しないだろう」
「はい」
「それでも、行くのか?」
「……大丈夫ですよ。彼は……甘い人ですから」
不気味なほど妖艶な微笑みに、愛紗はぶるりと震えた。
目の前の小さな少女は何を見ているのか、彼女には分からない。
不安の影が胸に湧く。自分達劉備軍が、いつの間にか全く別物に代わって言っている気がして。
ついと、朱里が白羽扇を唇に当てる。
「……やっと会える。貴方は……何処まで乱世を読んでいますか……秋斗さん」
小さな小さなつぶやきを聞いたモノは誰もいない。
願わくば、と朱里は思う。
自分の予測を越えて、何処までも先まで見通していて欲しいと。
それを越えた時、初めて自分は……空へと羽ばたけるから、と。
†
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