竜と詠む史は
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益州乗っ取りを企てている元凶を滅ぼすべし、と。
理想論を説く者と、現実的な利益を考えるモノ。どちらが己らの為になるかなど考えずとも分かる。
安全に暮らせればそれでいい。厄介事などもってのほか。まるで疫病神のようなその女さえ居なければ……自分達の安寧は守られる。
――そうして劉璋派として立ってくれれば……単純な武力で決着が付く。旧き龍と臣下達の命を生贄に捧げることで。
正直な所、劉備軍は劉璋軍に敗北することは有り得ない。兵士として立つのは民が大多数であり、多くの支持を得ている桃香と戦うのならば士気は自然と下がる。愛紗達のような武将の存在も大きく、正面からぶつかり合えば劉璋軍の勝ちの目などまず見当たらない。
ここ数か月で方々に派遣されていた為、土地勘などもある程度は得ているし、紫苑や焔耶といった主力武将も桃香に賛同しているのだ。
ただし、懸念事項は尽きない。劉璋軍と戦っても敗北は無いが、もっと大きな敵と戦うことを想定しているが故に……取りたくない選択肢であった。
「あくまで劉璋軍が先に攻めてきた場合にしか私達は動けません。桃香様の意思は協力、共存、共生。常々解いて来たその論を無視してこちらから発起してしまえば……民の信用は奈落に堕ちます」
「……劉璋軍が何もしない場合は?」
「有り得ません。西涼侵攻を開始する曹操軍に合わせて、劉備軍を防衛の名目で分断し主力を北上させ、桃香様を人質としている間に各個撃破、といったところ。それが益州勢力に取れる最善。
主である劉璋の意向を無視してでも、彼らは自らの思い描くモノの為に行動に移します。私達の策は、劉璋という存在を軽くさせてしまいました。故に、臣下達は本人の如何によらず、己の主はかくあるべしという妄信にて団結します。私達への敵対心が育っているからこそ、その妄信は止まらない」
「……それはもう、臣下とは……」
「呼べませんよ? 主の意思を汲み取れない臣下は臣下に非ず。だから益州は……腐敗した漢の縮図なんです。その腐敗を取り除けるかどうか、それが私達の課題となります」
「そうか……」
瞑目した愛紗の眉根が寄る。美しく長い睫毛に僅かに見惚れてしまいそう。
「それは我らにも当てはまるのではないか?」
憂いを帯びた瞳は真っ直ぐに朱里を射抜く。自分達が何をしているのか、何を考えているのか。その全てを、愚直に、真っ直ぐに、愛紗は判断して口に出した。
今の自分達は、主を無碍にする臣下ならざるモノではないのか、と。
ふっと、優しい吐息を朱里は吐き出した。
「やっぱり愛紗さんは……いいですね」
「何がだ?」
「彼と同じく、それを理解して尚、率先してやろうとする所が、です。
桃香様の剣として、桃香様の理想を叶える一助を。故に貴女は……今回のことは是
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