竜と詠む史は
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「……何がありましたか?」
此処は簡素なお茶とお菓子の準備された一室。帰還して直ぐ、仕事の報告書さえ見る事無く、朱里が選んだのは生に近い情報収集である。
街の様子は変わらない。成都の外に陣取っている彼の陣にも近付いていない。普通に帰還し、普通に報告し、普通に桃香達の館に戻ってきただけ。
連れ立ってきた小蓮は白蓮と共に行動させている。孫呉のことは今はいい。何よりも重要な問題が目の前に差し迫っている。朱里は対面する人物に言の葉を続けて投げた。
「言い方を変えましょう……彼は、桃香様に何をしましたか?」
問われたのは一人。
黒く艶やかな髪の毛は女としても憧憬の対象。黒、というのが朱里にとっては更に羨ましかった。
武人としても将としても飛び抜けた実力を持ち、曲がらない芯を持つ彼と相似な在り方。
朱里は帰ってきて真っ先に、愛紗を部屋に呼び出していた。
同じ水鏡塾で机を並べた藍々でなく、彼の心の内を慮れる星でもなく、間違いなく真正面から応対したであろう桃香でもなく、朱里が選んだのは愛紗。
信頼と信用。誰に対しても持っているが、愛紗は余分な情報を付けることなく生に限りなく近いモノを与える。予測も、予想も介入しない。状況を理解した上で事実を、分かりやすく伝えることが出来る。だからこそ、朱里は愛紗を選んだ。
「……桃香様の様子が変わったのは、彼が桃香様に対して“興味がない”と無関心を向けてからだ」
「無関心、興味がない……興味がない、ですか……ふふ、なるほど……」
白羽扇を口元に当てて笑う。目の奥に光る昏い輝きは何を見るのか、愛紗には分からない。
異なことだと思った。劉璋との謁見の様子でもなく、まず第一に聞いたのが桃香のこと。
彼がどんな動きをしているのか、曹操軍の狙いはなんなのか、謁見でのやり取りの詳細を確認せずともいいのか。
疑問が数多浮かんでも、愛紗はそれを黙殺する。朱里は必要なことしか確認しない。愛紗達が理解する為の確認作業として聞くこともあるが、今回は自分から聞く気になれなかった。
その紅の眼が余りに、異質だったかもしれない。
情欲の果てのような、しかし幼子の憧憬のような、そんな色。
「桃香様は、普通にお仕事を熟されているんですよね?」
「通常業務に支障はない、と思う。ただ、劉璋の元に行く回数は藍々の指示で減っている。要らない疑いを掛けられない為に、と。桃香様の心に掛かっている負担も大きいからな」
「……桃香様の御心にはそれでよいかと。ただ、増えても減ってももう策として価値がなくなりました。増えれば疑念を掛けられ、減ればやっぱりと思われる。益州の臣下達は私達に対して燻らせていた感情を再燃させてしまいましたから、此れから取る行動一つ一つ全てが非難の対象となるで
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