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王道を走れば:幻想にて
第四章、序の2:誓約 ※グロ注意
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したかのような外開きの間接を持っており、鶏冠のように突っ張って半開きとなった口元からは銀糸が幾筋も垂れ、焦げ付いた肉のような咥内を覗かせる。地面に落ちる度に粘着質なぴちゃぴちゃとした音が響く。その音は時計の針のように、互いの生気を伝え合っている。何時互いを狙って飛び込むとも知らぬ緊張感が、広大な広間を支配していた。

(・・・心臓に悪いな)

 広間を一望する高みに座すバルコニーにて、双方の対立を見下ろしていた禿頭の中年男は、肝を冷やし続けていた。バルコニーが安全のため鉄格子に覆われているとはいっても、怖いものは怖いのである。最近肥え始めた肉肌が震えているのが見て取れた。両者の危険性を理解していたからこその緊張でもあるのだと、男は己に言い訳をする。この広場に流れる風が宿舎からのみならず、墓地からの風も含まれているというのも、更に心を冷え込ませるものであった。
 その時、背後の方からたんたんと、階段を降りて来る音が響いてきた。振り向くと、騎士一人を連れ従う形で、レイモンド執政長官が現れた。

「・・・っ、執政長官殿!」
「敬礼はいらん。それより様子は如何だ?」

 広間を見下ろしながら、小太りの禿げは言う。

「まだ、なんの動向も見受けられません。二者、失礼、一者と一物は睨み合ったままです」
「・・・一物?」

 上司の呟きが嘲りに聞こえてか、男は顔をさっと赤らめて怒った瞳を逸らした。広間に佇む二つの怪物を形容した結果がこれである。但しその表現は正しいものだ。片方は執政長官が衆目から秘匿する悪魔のような人間であり、もう一方は魔術大学学院長の歪んだ置土産である。どうして双方がそうなってしまったのか、聞きたくもない事であった。
 レイモンドは広場のそれを見下ろして不満げに鼻を鳴らすと、男は驚いた表情でこれを見遣った。普段は感情的にならぬ上司なだけに、人間らしい態度が珍しく思えた。長官は言う。

「埒が明かんな。時間も限られておるというのに・・・何故動かん?」
「そ、それは・・・単に食欲が無いからではしょうか?どちらも肉食生物に部類するものでありますゆえ、目の前に餌を落とせば動くやも・・・」
「・・・ならば、投下してみれば如何だ?」
「え、餌ですか・・・しかし、一体何を投下すれば良いのか見当が・・・」
「・・・おい」
「はっ」

 騎士に呼び掛けてレイモンドは続ける。人と虫の区別が出来ぬような、冷徹な口調であった。

「墓地から死体を取って来い。なるべく新鮮な奴にしろ。先日の騒動で運ばれた憲兵の死体がある筈だ。あれを投下する」
「っ、し、執政長官殿っ、それはーーー」
「貴様には頼んでいない。・・・我が騎士よ、良いな?」
「し、承知致しましたっ!」

 慄いた表情のまま騎士はさっと身を翻して掛けていく。重
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