第四章、序の1:勧誘
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酒みたいな人間が言う台詞じゃないなぁって思いまして」
「・・・自分を見詰め直していたのさ。十年近くの歳月を無為無策に狩猟に費やした今の俺が、果たしてこのまま先もこんな風に当ての無い人生を送っていいのだろうか、とな」
「例の御友達の件ですか・・・ビーラさん、でしたっけ?」
「ああ。俺が狩人に身を落とす羽目となったのも奴が関係していてな、正直恨みがましい思いを抱いていたし、奴を屠った程度で恨みが解消される訳でも無い。この恨みを晴らすべく、奴以外の人間も追い続けようとも考えていた。だが、奴の最後の言葉を聞いて、そんな気が失せたのさ」
「差し支えなければ、聞かせてもらっても?」
「・・・『お前の人生を他人に明け渡しては駄目だ。お前はお前の思う通りに生きていけばいい』。そう言った」
「・・・ありきたりな表現ですけど、良い人だったんですね」
「ああ。実に身勝手だが、良い奴だった・・・良い友人だった」
杯を傾けてユミルは気付いた。底の方にまだ僅かに紫の滴が残っている。影を落としながらも光を放つそれを、ユミルは一気に仰いで大きく息を吐いた。酒のきつい香りは少量ながらも咥内に広がり、胸の蟠りを燃やしてくれる。小さく口元が歪むのは葡萄の味に満足しているからだけではないのだ。
言葉も無く酒を飲んでいく二人の下に、一人の男がやって来た。雀斑顔の兵士である。
「失礼しまう、ユミルさん、パウリナさん」
「・・・貴方は?」
「騎士ミジョーの使い走りって感じです。・・・なんで俺がこんな目に遭わなきゃならないんだか。騎士特権ってのはむかつくねぇ」
「あの・・・?」
「あぁ、すいません、一人で愚痴っちゃって。で、実は御二人に用があって来たんです」
「用とはどのような事なのだ?」
「それを説明するためにも、ちょっと来て戴けますか?結構大事な用事らしいから、出来れば人目は少ない方が良い」
それは遠回しに、王都内縁部の騎士宿舎へと案内する言葉であった。先まで用を成していた葡萄酒も無くなって、今は足が軽やかである。
「断る理由も特に無い、承知した。パウリナ、お前も来るよな?」
「ごくっ、ごくっ、ごくっ、ぷっはあああっ!!!はいっ、行きますよ?」
満面の笑みを酒気の赤に照らして、パウリナは快活にそう言った。麦酒を飲むのではあるまいし、酔いはかなりきつめに回るであろう。それにしたっては豪快な飲みっぷりであり、将来の有望性を窺わせるものであった。
「・・・な、なら此方へ。・・・凄い友人ですね」
「うむ・・・酒乱で無いのが救いだよ・・・」
「あああっ、なんか火照って来たなぁ・・・すいません、もう一杯下さいぃ!」
「・・・酒乱じゃない?」
二杯目の葡萄酒目掛けカウンターに寄り掛かるパウリナのだらしない格好を、ユミルは何処
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