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王道を走れば:幻想にて
第四章、序の1:勧誘
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 昼時の王都の外縁部。その一角に位置する喧騒に包まれる一軒の酒場にて、ニムルはぼぉっとした目付きで葡萄酒を口の中で躍らせていた。昼と夜の区別も付かぬ馬鹿騒ぎが周囲に立ち込み、窓からはきらきらとした陽射の眩さが目を打っていた。そんな煩わしさをまるで意識しないかのように、ニムルは窓際の椅子に座ってゴブレットの中身を啜る。
 一人、その場の空気も読んでいない彼の態度に対して、鎧姿の髭面の男が迫ってきた。がさついた声と酩酊した目付きはとても憲兵がするようなものではない。

「おい、あんた。きいてんのか?」
「・・・聞いておらん」

 男はむっと顔を顰めた。先程から無駄な努力を図っていたらしい。

「っざけてんじゃねぇぞ。酒代よこせってんだ、糞。誰相手にしてんのかわかってんだろうな?」
「王都の憲兵だろう、昼間から酒をたらふく飲んでいる」
「わかってんなら金出せよ、ユミルちゃん?報奨金で酒飲む以外何もする事ないんだろ?だったら俺が有効に使ってやるって言ってんだよ、よこせよっ!平時は守ってやってんだからその謝意を見せるくらいは出来るだろ、能無しっ!!」
「・・・ふん」

 ユミルは男の啖呵を鼻でふっと笑い飛ばし、葡萄酒を更に啜っていく。男は露骨に大きく舌を鳴らし、周囲がぎょっとするのを省みずグリーヴに覆われた拳を振り上げようとした。

「・・・お、いたいた、御主人よーい」

 その時、気を削ぐような軽い声が掛かってきてユミルは視線を向けた。酒場の入り口からひょこひょこといった軽い足取りで、常の大胆な黒衣装に身を包んだパウリナが近寄ってきた。そして兎を射殺すような瞳をした男とユミルを見比べて、居心地悪げに猫のような口を微苦笑に変えて言う。

「え、えっとぉ・・・お邪魔でした?」
「・・・ちっ、ツレがいんのかよ」

 男は憎憎しくユミルを睨んでから傍を離れ、別の一人客に絡み出した。流石に数日前の騒動鎮圧で報奨金を頂く程の活躍をした二人を相手取っては、男も立場が悪くなるというものである。
 パウリナは腰に手を当てて、呆れ顔でユミルを見下ろした。

「昼間っからお酒なんて飲んで、大丈夫なんですか?」
「俺は別に下戸でもないし、金銭には困っておらん」
「そんなこと言ってると直ぐに使い切っちゃうもんですよ。酒に手を出して全身浸っちゃうなんて、人生損してますって」
「ほう?そういうお前は金を何に使うんだ?」
「もっちろん、服の新調ですよっ!いやあ、前々から変えようと知り合いに頼んでたんですけどね、代金が思ったより高くて払い切れなかったんですよ。だから今回の報奨金を当てて、漸くこのボロ服ともオサラバですね」

 そういって彼女は己の服をぱんぱんと叩いた。彼女の肢体に色目を放っていた男達を睨んでから、ユミルは服を見る。別段これ
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