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食事の秘密
8部分:第八章
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第八章

「当店ではそれを出しています」
「そうだったのか」
「それで如何ですか」
「美味い」
 今度の言葉は一言だった。
「ここまでの味とはな」
「これも御気に召されましたね」
「うむ」
「それでデザートは」
「それも日本のものだな」
「はい、そうです」
 そうだというのであった。
「饅頭ですが」
「中華料理にもあったな」
「そうですね。ただ違うのは」
「肉が入っているのが中国の饅頭だったが」
「日本では餡が入っています」
「餡とは!?」
「小豆を潰したもので。あっ、小豆とは小さい黒い甘い豆で」
「豆からデザートを作るのか」
 これもまたシュナイダーには驚くべきことだった。甘さとは砂糖や蜂蜜、そして果物から採るものだと思っていたからだ。東ドイツの常識から考えていたのだ。
「それはまた」
「ドイツではありませんよね」
「はじめて聞いた」
 実際にこう言う彼だった。
「そんな話はな」
「やはりそうですか」
「ううむ、そしてだが」
「そのデザートで宜しいですね」
「あと緑茶だったな」
 これも知っている彼だった。
「緑茶というものもあったな」
「はい、最後の飲み物はそれにされますね」
「うむ、一度飲んでみたい」
 シュナイダーは店員にはっきりと述べた。
「それではな」
「はい、それではお饅頭と緑茶を」
「頼む」
 こうして最後はその二つにしたのだった。そして出て来たのは。
 草色の小さな丸いもちもちとした感じの饅頭が二つに見事なまでに緑の色をしたお茶の二つだった。その二つが彼の前に出されたのだった。
「どうぞ」
「うむ」
 店員に応えてから食べる。するとだった。
 草色の饅頭のその粘りがあり歯に抵抗を見せる歯触りの奥にある甘さはだ。落ち着いてあまり自己主張しない。しかし柔らかくしっとりとくる甘さを味あわせてくれるものだった。
 その甘さも彼がはじめて味わうものだった。その優しい甘さに親しみを感じずにはいられなかった。そしてその次の緑茶もだった。
 飲んでみると渋い。だが口を清らかにしてくれるのだった。その落ち着くものを味わいだ。彼は満足して店員に対して言うのだった。
「素晴しいな」
「御気に召されましたか」
「日本人は幸せだな」
 そしてこう言うのだった。
「こんなものをいつも食べているとはな」
「流石に刺身や天麩羅はちょっとした贅沢なものですが」
「それでも食べているのだな」
「はい、勿論お饅頭も」
「羨ましい限りだ」
 心から思っている言葉だった。
「味噌汁も豆腐もよかった」
「そう言って頂けて何よりです」
「そして」
 そのうえでだった。彼はこうも言うのだった。
「こうしたものを食べられる西ベルリンの物達もな」
「んっ?何か?」

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