暁 〜小説投稿サイト〜
幸福の十分条件
その瞳の遺したもの
[3/6]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初
がっていたのだろうが、言うつもりはない。ナイフを振り向けることはできても、言葉を振り向けるような勇気は俺にはなかった。
 俺の心にあるのは虚無感だけだった。いったい、なにをどうすれば良かったのだろう。問いかけてみても、誰も答えてはくれない。
 なにかを、どこかで間違えてしまった。俺のせいなのか、俺以外のせいなのかは、もうどうでもいいことだった。重要なのは、俺の人生がもう修正不可能なところに来てしまっている、ということだけだ。
 だから、きっと俺が幸福になるためには──。
 突然の振動と爆音。地震かと思うほどの揺れが、俺の身体に伝わってきた。
 さらに二度、三度と爆音が続き、銃声が響く。音のすべては上階から聞こえてきている。
「なん、だ?」
 恐る恐る俺は鉄格子へと近づく。だが目の前にある上階への階段からは、なにも見ることができなかった。それでも異常事態だということだけは分かる。
 銃声に絶叫。大勢の人間が生み出す振動が、巨大なものとなって天井を揺らしていた。
 俺は鉄格子のそばに不安な心持ちで立っていたが、すべきことが見つからない。こうしていても仕方ないので、壁際にまた座り込んだ。
 恐らく何者かが侵入、あるいは襲撃してきたのだろう。そうであるなら逃げ出したかったが、ほかの人間たちも俺どころではないだろう。収まるまで待つしかなかった。
 思いのほか、俺の頭は落ち着いていた。死ぬかもしれない。そのことに巨大な恐怖を抱いたが、感情を無視するのは得意だった。
 しばらくすると、少しずつ音が遠ざかっていった。天井の揺れも収まり、戦いは終わったのだと俺は安堵した。
 次の瞬間、牢屋全体に衝撃が走った。先ほどまでとは比べものにならないほどの振動が発生。思わず俺は床に手をついてしまう。
 爆発のような轟音が上階から鳴り響いていた。音が連なるにつれて振動がどんどん増幅していく。
 そしてついに天井が崩落。巨大な瓦礫が落下してきて、俺の身体は衝撃によって吹き飛ばされてしまう。
 壁に激突。全身に激痛が走る。視界が土埃で埋まっていてよく見えないが、どうやら横に派手に吹き飛ばされて、別の壁にぶつかったようだった。
 爆音と振動のすべてが収まっていた。なにが起こったのかさっぱり分からなかったが、瓦礫を登ればなんとか上階に出られそうだった。
 身体を起こそうとしたところで、腹部から激しい痛み。視線を落として自分の腹を見ると、細い鉄パイプのようなものが三本、刺さっていた。
「……うそ、だろ」
 冗談のような言葉が自分の口から勝手に出ていった。状況を認識したせいか、思考を塗りつぶすほどの痛みが俺に襲いかかる。
「あぁああああああああっ!!」
 絶叫。腹部が鼓動するかのような感覚。膨れ上がるたびに、俺は耐え切れずに叫び声をあげていた。
 腹部か
[8]前話 [1] [9] 最後 最初


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ