映し出されたもの
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としないのか分からなかった。不調はそれだけではない。吐き気までしてきたし、視界がぼやけて見える。正体不明の感情が胸の奥からこみ上げてきていた。
通行人が不審そうに俺のことを見てくる。それに気がついたとき、何事もなかったかのように俺の身体は動き始めた。
だが、身体は食堂ではなく、勝手に自室へと向かっていた。そのまま自室に入ると、扉を閉めて、鍵をかけた。
その瞬間、俺の中のなにかが決壊した。
気がつくと、時間が日付を跨いでいた。
寝台の上で壁に背を預けたまま、目線を下ろしていく。部屋が崩壊していた。
本棚は横倒しになっている。床には何冊もの本が散乱。机の上のものは周囲に飛び散っていた。寝台のシーツさえ、引きちぎられている。
酷いありさまなのは部屋だけではなく、俺の身体も同じだった。頭は鉛のように重いし、泣きはらした目が痛む。さんざん打ち付けた腕は赤く腫れ上がっていて、額から流れた血が顔に痕を残している。
まるで誰かと格闘したみたいになっているが、俺は誰とも殴り合いはしていない。強いて言うなら部屋と殴り合いはしたか。
あの後、俺は半狂乱となって自分の部屋で大暴れした。本棚を自分で引き倒し、机の上のものを薙ぎ払い、慟哭をあげながら床を何度も腕で打ちつけた。腕の感覚がなくなってくると、今度は頭を打ちつけた。
冷静な頭で振り返ってみても、何故暴れたのか、自分でもよく分からなかった。恐らくは怜司と桜が原因なのだろう、と俺の頭は予想した。赤くなった彼女を見たとき、俺は彼女もまた怜司にまつわる“登場人物”なのだと感じてしまった。普段、かんざしをつけていない女が、たまたまかんざしのつけ方を覚えた直後につけて現れるなんて、偶然にしてもできすぎてる。そう思った瞬間、俺はなにもかもがどうでもよくなってしまった。
この考えが明らかに間違いなのは、自分でも分かっている。ここは現実で、物語の中じゃない。そんなことは分かっていたが、それでも怜司に対してだけはそう思うことしかできなかった。
間違いだと分かっているのに、その考えを変えることができない。きっと俺は、どこか壊れてしまっているのだろう。なにか、自分や人生に対する認識のなにかが壊れている。だが、もう、自分ではどうすることもできなかった。俺はもう、疲れ果てていた。
こんなことなら、あのとき怜司のお節介がないほうが良かった、とさえ思う。それならまだ、遠くから見ているというだけでなんとかなったかもしれない。中途半端に桜と接近しているのが良くなかった。
冷え切った頭が、さらに思考を遡らせていく。そもそもどうして俺はこんな世界に来てしまったのだろうか。一体どうして、怜司という最悪な形の人間が目の前に現れ、桜という女性と出会い、こんな状況に陥っているのだろうか。何故、俺は生まれて、生き
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