10部分:第十章
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第十章
「西側のビールはな」
「はい、まさに黄金の酒です」
「東側にあったものとは全く違う」
こう言うのであった。
「まるで違う飲み物だ」
「全くですね。何もかもが」
「私は実はだ」
メルカッツは自分のことも話す。そのパスタを食べながらだ。
「あれなのだ。イタリアが好きなのだ」
「そうなのですか。実は私もです」
「君もか」
「そしてパスタもです」
それもだというのだった。
「大佐程ではありませんが」
「それでもか」
「はい、しかしあまりにも美味で」
「そうだな、東側にもパスタはあったがな」
それはあったというのだ。しかし、とも話されるがだ。
「やはり味はな」
「このパスタとは比べ物になりませんね」
「ついつい食べ過ぎてだ」
「そうですね。他の食べ物と一緒で」
「今ではこの有様だ」
丸々と太りしかも顔は油ぎっている。かつての精悍さは見る影もない。
「この前の健康検査だが」
「まさかとは思いますが」
「肥満だけではなかった」
それに止まらないというのだった。
「痛風の危険もあるらしい」
「ビールのせいですね」
「飲み過ぎだな」
「そうですね。私も最近足の親指が気になります」
痛風になればまず足の親指に激痛が走る。だからだというのだ。
「西側ではです。その痛風がです」
「国民病だったな」
「はい、ですから」
「我々もその危険を感じるようになってきたか」
「東側ではそんな心配なぞなかったというのに」
「あれだな」
メルカッツは苦笑いと共にこう言った。
「美味いものを食べると心が弾み健康にもなるが」
「食べ過ぎればですね」
「かえって健康によくない」
「そうですね。肥満に痛風に」
「そういうことだな。見ればだ」
メルカッツは店の中も見回す。するとだった。
妙に頭が眩しい男が多い。かなり目立っている。それを見てだった。
「西側にあったのはネオンの灯りだけではないな」
「ええ。天然の灯りも豊富です」
「ビールとソーセージのせいだと思うがどうだ」
「それしかないかと。どうも統一してから東側も灯りが増えました」
無論ネオンだけではない。その天然のものもだ。
「どうやら我々はです」
「統一されて深刻な悩みとも向かい合うことになったな」
こんなことも言うがだった。結局食事を楽しむ彼等だった。東側にはなかったもの、だが今はそれを思う存分楽しめるようになったのだ。成人病等の不安も一緒に抱え込みながらにしても。
食事の秘密 完
2010・11・29
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