第3章 黄昏のノクターン 2022/12
34話 造り物の心
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は、という焦燥感と、それだけの重荷を俺が耐えられるだろうかという不安が綯い交ぜになった感情の奔流は、しかしティルネルの声を耳朶に受けた時には、延長された体感時間など露ほども感じさせないほどに一瞬に感じられる。この揺さぶられるような思いには、慣れることはないかも知れない。
「………決して、コルネリオさんの強さを認めていないのではないのです。ですが、相手は………人族の手に負えるものとは到底思えない。もちろん、私にも………このまま、あの人達が、もし死んでしまったらと思うと………それに、このまま姉さんを救えなかったらと思うと………恐いんです………」
意図的に情報を伏せているのか、それとも口にするのを憚られるような内容なのだろうか。不透明なティルネルの言葉には、それでも困難な障害が立ちはだかっていることを暗に伝えるものがある。現状において破格のレベルを誇るコルネリオでさえ手に負えないような何かを、ティルネルは見たのかも知れない。
加えて、それだけの存在をフォールンが有するとして、このままコルネリオ達を戦いに向かわせれば、それは即ち彼等を見殺しにすることとなる。しかし、彼等がフォールンへの襲撃を取り止めれば、今度は黒エルフの拠点であるヨフェル城が戦渦に呑まれることとなる。
コルネリオやその側近、部下の黒服達はこのSAOによって生み出された仮想の存在でしかない。俺達のように《生きているプレイヤー》とは別種の、造り物だ。しかし、だからティルネルが気に病むことはないという発言は、決して気休めにはならない。いや、気休めにしてはいけないのだ。
彼等を《NPC》と、仮想世界が生み出した幻影であると断ずれば、それは同様の存在であるティルネルを、今まさに苦悩している彼女の《心》を否定してしまうことになるのだから。
それに、ヒヨリでもなく、クーネでもなく、この数日ですっかり気心の知れた同性の友人を差し置いて、わざわざ俺に相談を持ち掛けてくれた。彼女の苦悩に向き合わず、気休めで場を濁すなど、それこそあってはならない。ティルネルの仲間だと自負する俺にとっては恥ずべき悪手だ。そんな事をすれば、相棒に愛想を尽かされても文句は言えないだろう。
「俺だって完璧じゃない。全てを理想の形で完結させるという高望みだけはしないでくれ」
「………何を、するんですか?」
「ティルネルは調剤器具とポーションの材料を用意。必要な種類と数量は追って知らせるから、いつでも作れるように準備しておけよ。いいな?」
ティルネルの返事も待たず、メールウインドウを開いてアルゴに文書を飛ばす。
生憎とキャンペーン・クエストを実際に攻略した事のない俺は、精々そのストーリーが黒エルフと森エルフとの戦争であるという程度しか知り得ていない。正直に告白するなら
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