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そんなのがあった」
「信じられないですね」
「信じる信じないは別にして本当の話だ。次郎長一家にも坊主くずれがいるぞ」
「それも初耳です」
「そういうのも知らない時代になったんだな」
山根はついつい愚痴を言ってしまった。次郎長一家や森の石松と言えばかっては誰もが知っている存在だと思っていたのだがそれはもう過去の話のようだと。
「若い奴に次郎長とか言っても」
「すいません」
「謝ることはない。それでだ」
「はい」
話は元に戻った。山根はあるビルを指差した。
「やっぱりここだな」
「あの連中ですか」
話は例の宗教団体に移っていた。
「ここだけが金の出所がわからないときた」
「どうやって収入とか得ているんでしょう」
「さてな。よくこうした団体の脱税とかは聞くが」
「ええ」
「しかしな。そもそもこの連中は何者なんだ?」
山根は言う。声と目が鋭くなっていた。
「そこもよくわからないぞ」
「新興の宗教団体じゃ?」
「一応そういう団体はあった」
山根は尾松にそう述べた。
「本部は広島にある。キリスト教、プロテスタントの団体らしい。何でもピューリタンの精神を日本でも教えていこうという団体らしいな」
「ピューリタンというとあれですか」
これには尾松も気付いた。
「歴史に出て来るあの」
「そうだ、やたらと生活を質素にしている連中だな」
「イギリスだのアメリカだのに今でもいる」
清教徒のことである。極めて質素な生活をむねとした厳格な戒律で知られている。アメリカに渡って建国の祖となったのは教科書にある通りである。この為アメリカでは意外と宗教性が強い一面があるのである。その中でもとりわけこのピューリタリズムの存在は大きいものがある。
「それだ。そこと実際に電話で話をしてみた」
「それで?」
「何でも積極的に布教はしていなくて関東にも進出はしていないらしいな」
「えっ!?」
尾松はそれを聞いて顔を前に出してきた。
「今何て」
「積極的な布教活動も関東への進出もしていないらしい。あくまで自分達は自分達で静かに考えていきたいそうだからな」
「じゃああの連中は」
「そこだ」
山根は尾松の顔を見て言った。
「あの連中は何故ここにいるかだ」
「そうですよね、それだと」
「これは話の後で調べたことだ。何でも団体の中で分裂があったらしい」
どんな組織でもよくある話である。意見対立もあれば権力闘争もある。金銭を巡るものもある。どちらにしと自分達がどう思っていても外から見れば醜い話であることが多い。
「それでこっちに逃げてきたと」
「こっちに来た連中は言うなら商売人らしい」
「よくある話ですか」
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