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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二十三話 開戦前夜
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「エーリッヒ、何故さっきは止めたんだ。提督の案よりミューゼル准将の案を取るべきじゃないか」
「そうだね。私もそう思うよ、ナイトハルト」
「じゃあ、なぜ」
「参謀長室へ行こうか」
先の会議でミュラーはラインハルトの案を支持しようとしたのだが俺が足を踏んで止めた。大分不満そうだ。部屋に入る前にゲルハルトに誰も入れないようにと念を押す。
「敵は我々のほうにはほとんど来ない」
「どういうことだ、それは」
「ミュッケンベルガー元帥がそういったよ。左翼には負担は掛けないようにすると。おそらく再編した宇宙艦隊の実力を試したいんだと思う。それに元帥も我々が頼りにならない事は判っている。卿ならどうする。我々を積極的に使おうとするかい」
「……いや、しないだろうね。そうか、主戦力は右翼と中央か。兵力はこちらが多い、上手くいくかな?」
「どうかな。膠着状態になるんじゃないかと思う」
「だったらミューゼル准将の案を採用するべきじゃないか」
「どうせならグリンメルスハウゼン艦隊全体で行うべきだと思う」
「なんだって?」
「我々の艦隊はほとんどが遊兵化する。ある意味予備戦力といっていい。ミュッケンベルガー元帥が敵の兵力を引き付けたらこちらは全艦隊を持って時計回りに行進し敵の右翼を叩き後背を突く。ミューゼル准将の案は良い案だが、あれはこちらに敵が来るというのが前提になっている」
「なるほど。しかし敵がこちらにきたらどうする。念のためミューゼル准将の案を受け入れ砲艦を用意するべきじゃないか」
「敵が気付くよ。相手だって馬鹿じゃない。砲艦を用意したら先ず最初にこちらを叩き潰そうとする。こちらはそれに耐えられない……」
「……」
「ミュッケンベルガー元帥は開戦とともに攻勢を掛ける筈だ。さらにこちらの戦意が低いと見れば敵はミュッケンベルガー元帥に集中せざるを得ない」
「そこを突くか」
「そうだ。この作戦は艦隊の行動速度が鍵になる。どれだけ高速で動けるかだ」
「わかった。速度の遅い分艦隊は中央よりにしよう。高機動艦隊は左翼に持っていく」
「ナイトハルト、うまくいくと思うかい」
「どうかな、上手くいきそうにも思えるが、始まる前から失敗する作戦は無いからね」
確かにそうだ。始まる前から失敗する作戦は無い。どんな愚策であろうと成功すれば奇策となる。しかしミュラー、もう少し言いようが有るだろう。俺たちは運命共同体なのだから……。
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