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蝶姫
第三章
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「黒と黄色は縁起いいし虎も奇麗だって言って」
「けれど高校の生物部で虎飼えないからね」
「流石にね」
「虎はないわね」
「やっぱり」
「けれどそれ以外はね」
 それこそというのだ。
「本当に、だから」
「青虫とかヤゴとかおたまじゃくしとか」
「そっち系なのね」
「ぶれないでそうなのよ」
 そうした生きものばかり育ててるというのだ。
「あの人は」
「青虫ね」
「愛実としてはわかっていてもなのね」
「あの人のそうした志向には抵抗があるのね」
「どうにも」
「少しだけれどね」 
 こうクラスメイト達に話すのだった、そして部活の時にだ。 
 自分からケースの中にいる青虫達にキャベツをやる青葉を見てだ、愛実は本人にこうしたことを言った。
「あの、部長」
「何?」
 後ろにいる愛実にだ、青葉は振り向くことなく問うた。
「何かあったの?」
「青虫お好きですか」
「大好きなのわかるでしょ」
「はい」
 愛実もわかっていたので即座に返した。
「育って、そしてですね」
「奇麗な蝶になることがね」
「他の生きものもですよね」
 愛実は今度はその青虫以外の生きもののことを尋ねた。
「ヤゴやおたまじゃくしも」
「そうよ、皆ね」
「そっちは蚊を食べたりしてくれるから」
「縁起もいいしね」
「亀もですね」
「そう、亀だってぼうふら食べてくれるから」
 このことは青葉から言った。
「いいのよ」
「ぼうふらから蚊になるから」
「蚊自体を退治することも大事だけれどね」
「ぼうふらからですね」
「退治しないと駄目なのよ」
「蚊は退治するんですね」
 愛実はここで言った、何種類もの生きもの、奇麗なものや縁起のいい生きものを慈しみ育てている彼女に。
「そうした生きものは」
「確かに同じ命よ」
 ここでだった、青葉は愛実に顔を向けてきた。やはり童顔で大きな丸い目が目立つ。澄んだ琥珀色の瞳である。
「青虫も蛙も蚊もね」
「そうですよね」
「そのことは愛実ちゃんの言う通りよ。けれどね」
「蚊は、ですね」
「人を刺して血を吸うでしょ」
「後が痒いですね」
「痒いどころかね」
 それに加えて、いやそれ以上にとだ。青葉は愛実に言うのだった。
「伝染病の感染源だから」
「日本脳炎とか」
「マラリアとかのね、実はね」
「実は?」
「私のひいお祖父ちゃん、もう九十越えてるけれど」
「その人がですか」
「戦争に行ってたのよ、ジャワにね」
 今で言うインドネシアだ、日本軍はそこまで行ってオランダ軍を瞬く間に撃退した。そしてその後今村均中将が現地の人達と共に戦い公平な統治も行った。
「そこでマラリアに罹って」
「その病気にですか」
「死にそうになって日本に帰ってからも何度もぶり返して」

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